第六十四話part9
川に放置されてた猩々は竹やりのような物で人間たちに突かれてた。猩々の体は頑丈で、そしてその毛は大抵の刃物だって通さない。だから竹やりなんかで普通はその体を貫かれる……なんてことはない。
でも今は弱ってて、それに遠くから勢いよく突く……というよりも、先端を傷口に押し当ててそれから力を込めて押し込む……という感じで奴らは猩々に竹やりを刺してきてる。
「はは! こいつ動けないくらい弱ってるぞ!」
「どんどん刺してやれ! 村の皆の恨みをこいつにわからせるんだ!」
そんなことを言って次々と竹やりが体に入ってくる猩々。苦しみ、うめくような声が漏れる。でも大きく叫ぶようなことはしない。けどその奥の瞳は人間をしっかりととらえてる。そしてどんどんと黒く……濁っていく。彼らが竹やりを刺す度にもちろん猩々には鋭い痛みが走ってる。
体に入ってくる竹やりの異物感は不快だ。でもそれよりももっと不快で気持ち悪いものがあった。それは彼らの心からあふれ出てる憎しみと復讐心。目の前の人間も恨みにとらわれた化け物……になってるとおもった。
こいつらと今の猩々はそんなに変わりはしないって……そしてその恨みが猩々に流れ込んできてる。
「もっと! もっともっともっと苦しめ! 痛いだろおおおお!! 死んだ奴らはもっと痛かったんだ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
彼らは正気じゃない。恨むべき対象が見つかったことで、その怨念が爆発してる。そして猩々を痛めつけるたびにその溢れる猩々に入っていってる。ただでさえ、あふれ出る憎悪に苦しんでた猩々にさらに加算される憎悪。
当然のごとくその臨界はあっけなく破壊される。そして次の瞬間には――
「え?」
――竹槍を押し込んでたやつの隣の人間の胸から上がなくなってた。そしてそれを認識した奴もその口で首から上を食いつぶしてやった。それからは地獄。この川に新たな赤い血が混じったのはいうまでもない。
人々の憎悪も食らい、暴れるしかなくなった猩々。それからは一番大きなその猩々も暴れだす。先に暴れてた猩々と共闘? そんなことはない。目の前に現れた生物はたとえ同胞であっても殺し合う。人間はもちろん絶対に許さない対象だ。
それから暴れまわった猩々によって、その山の周囲一帯は恐怖に落ちることになった。




