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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第六十四話part8

「あがっ……あがっがああああ! あぁぁぁあああぁぁあああああああ!!」


 流れ込む人間の恨みつらみ……怨嗟は呪いで……それが猩々たちに刻まれるようだった。だめだ ……やめろ! 食うな!! そんな風に仲間たちに一番大きくて理性的だった猩々が声をかけるが、それで起きたことは……袋叩きだった。


 気づいたら大きな猩々は川の清流に浸かっていた。みすぼらしい姿で、空をあおいでた。体の節々が変な方向に曲がってたり……そもそもなかったりしてる。食われたのだろう。仲間さえも、家族さえももうわからなくなってしまったようだと悲しくなった。いや違う。

 その瞬間、悲しみは塗りつぶされて胸の奥から湧き上がるのは憎しみだった。いや、怒りかもしれない。悲しみは一瞬で燃え上がるように怒りが震えあがる。


「あいつら! あいつら! あいつら!!」


 そんな風に叫ぶ猩々。言葉を介してるようだが、それは猩々語であるから、人が聞いてもそれは「があ! ぐわあ! ががあ!!」――とかしかない。だがいくら叫ぼうと怒りが燃えあがろう動くことはできない。腕も足もまともにうごかせない。


 下流の方を見ると、清流が黒くなってる。それはなぜか。簡単だ。この猩々の血が肉が……川を汚してる。それから何日たったのかわからないくらいに、人間がゾロゾロとやってきた。

やつらはいう。


「あれだ!あれが川を汚してやがるんだ!」

「化け物……この化け物のせいで!」

「まだ生きてるぞ!」

「殺せ! こいつが川を穢したせいでおらたちの村は……」


 何やらそんなことをいってる。猩々も多少の人の言語を解する。でもそれよりもものを言ってるものがある。それは……彼らの体から立ち上る憎しみと怒りと悲しみだ。そしてそれはまっすぐに猩々へと向かってた。

 猩々は多少回復したとしても、まだまだ傷口はふさがってなかった。それはおかしかった。なにせデカいだけあってその体を支える生命力は大きい。傷もすぐにふさがるような……そんなおかしな存在が猩々たちだ。森の生態系も変わって、昔のように巨大な獣は減ってる。

 小さくなった動物たちはか弱く、脆弱になってる。でも猩々たちはそんな獣とは一線を画す存在だ。なのに……まだ血は流れつづけて、傷もなおりが遅い。なのにその身に宿る憎しみは大きく肥大してた。


 それは人間を見たときから現れてる。だって猩々の頭は「食いたい」――という焦燥で満たされてたからだ。

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