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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第六十四話part4

 育代は猩々の垂れてる毛に触れた。たくさんある毛の一つ。それが肉体にちゃんとつながってさえいれば、それでよかった。それで育代の力を伝えることができるんだから。育代の力は『若返る力』? いや違う。表層は確かにそれだった。育代だってそうだっておもってた。自身の若さを取り戻す力だと思ってた。

 けど若さに一方通行なら再び元の姿に戻ることはできないはずだ。育代は中身おばあちゃんだけど、幸いにも本が好きだった。いつも読んでるのは小頭の印象通りに小難しい本が多い。それこそ文字でいっぱいの本ばかりだ。

 誰かのエッセイとか、為になる本、そしてハードカバーの本をたくさん。長い年月、本を読むことは育代の趣味だった。だからたくさんの本を読んできた。まじめな話が多かったが、ハードカバーにだって冒険とか、不思議な力を使う話はある。

 自分の力……それの違和感は元からあったんだろう。知識はあった。もちろんファンタジーの本の内容なんてのは妄想でしかないだろう。けど、参考に出来ない事はないはずだと育代は思った。これまでの人生で読んだ本の知識、それをたくさん掘り起こして、育代は自身の力の解析をしていったんだ。


 それでわかったのはやっぱり「若返り」という部分は育代の力の一つの側面でしかないとわかった。足軽は複数の力を使いこなしてた。それに対して育代は初めての時は勝手に若返ってた。だから若返りの力……若返ることができる力――なんだと思った。

 でも戻るときはどうだったか? それは実は自分の意志だった。


「いつまでもこの姿のままじゃまずい」


 当然だけどそうなる。だって突然自身の伴侶が若返る? どんなフィクションだと……そうなるだろう。簡単に信じてもらえることじゃないって育代は思った。だから元の姿に戻らないといけなかった。おじいちゃんはおばあちゃんを愛してる。いつだって二人は一緒に食卓を囲んでるんだ。それに家の事はおばあちゃんがやってるわけで、いきなり若返った姿で登場なんてしたら、初老に足を突っ込んでるおじいちゃんの心臓がびっくりするかもしれない。

 そんなことを思ったら、元に戻る必要があった。そして能動的に、その時初めておばあちゃんは意識して力を発動した。そして戻ることができた。『若返る』ことが一方通行ならば、元の姿に戻るなんてできないはずだ。でも元の姿に戻れたのなら、若返りの力……というのはきっと適切な表現じゃない。まあでも時々若返りに使う……それだけ育代は満足だった。


 そう猩々たちとあって、そして足軽たちが帰省してくるまでは。



「私の力は、ただの若返らせる力じゃない……」


 つかんだ毛を通して、猩々へと浸透していく育代の力。それは淡く猩々を光らせる。でもなにかされる……と本能が警告してるのか、猩々が中から大きな力を発し抵抗してくるのを育代は感じた。育代は力を消耗してる。巨体の姿になり、その力が飛躍的に上がってる猩々に必死に抵抗されたら、打ち負けてしまうことは十分にある。

 育代の力の特性上、その体にしっかりと浸透させるのは必要な事だ。それができないとなると……でもそこは二人の頼りになる鬼がやってくれる。ボキッ――といういやおとが響く。そしてズドーンという激しい音も……物理的な衝撃によって、猩々は溢れさせようとしてた中の力を集めるのに失敗してしまった。


 今の内だ……育代はそういわれてる気がして一気にこの時に力を猩々へと浸透させる。


「私の力は肉体の時間の操作。お願い、暴れないで! 元に戻してあげるから!!」


 育代の力が大きくなった猩々に変化をもたらし始める。


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