第六十四話part3
「長くは持たないわよ」
「……わかってる。こいつは俺たちが連れて行こう」
「でも、この子は元はこっちの……」
そんな育代の言葉に鬼男は首をふるう。そしてその重い口を開く。
「お前もわかってるはずだ。これはもう、浸りすぎてる」
「……」
「せめて、お前の手で助けてやれ」
二人は何とか巨大な猩々の体を持ち上げていく。二人の体は赤いオーラと青いオーラで覆われてる。鬼女が赤く、鬼男が青い。さらに二人ともなんか一回りくらい大きくなってるようにみえるし、さらにはその角が長くなってる。一番強い光もその角から発せられてる。
それにその髪もそうだ。鬼女は元から長い髪をしてた。だから燃えるように発光してる以外に違いはないかもしれない。けど鬼男の髪は短かった。それこそ短髪と言ってよかったくらいだった。所謂長髪ではけっしてなかった。
でも今の鬼男はどうだ? 鬼女と同じくらいの髪の長さになってるし、その髪も同じように燃えるように光ってる。
「わかました。所でその姿は……」
疑問を育代は口にする。気になることだし、それはしょうがないだろう。それに別に言いたくなかったらそれでもいいと思ってた。けど鬼男は短くこういった。
「印を解放した。これが最後だろうからな」
「そうそう、なら全力でいかなきゃね!」
どうやらこの姿が本当の鬼たちの全力全開――ということらしい。確かに今までにない感じになってる。頼りになる二人に支えられて、育代も立ち上がった。その時、両手で地面をついた猩々がふと体を持ち上げた。一瞬負荷がなくなった鬼たち二人。
でも次の瞬間には一時的に体を持ち上げてた猩々がさらに勢いをつけて体を落としてきた。でも覚醒した力を開放してる鬼たちはすごかった。さっきまで膝を折った猩々を今度はその体を余裕をもって支えたんだ。
「触れろ」
すぐそこに猩々の体はある。鬼たちは力を全開放してる。さすがのこの巨体の猩々もこの鬼たちには勝てるとは思えない。てか勝ってもらっては困る。なら育代が干渉できるのはここしかない。
(この子を元に戻せれば……)
まだ救えるかもしれない。全力でいく宣言をしてる鬼たちはこの猩々を扉の向こうに送るか、その力でぼっこぼこにして消滅させるとか……そんなのだろう。けど育代には猩々たちと過ごした思い出がある。少しの間だけではある……でも、猩々たちはずっとずっと長い間、静かにこの山にいたんだ。
育代が力に目覚めなかったら、もっと穏やかな最後があったかもしれない。それかもっともっと生き続けられたかもしれない。こんなのはきっと本位じゃないだろう。育代は自身の力でどこまでできるのか? なんてわかんない。
けど育代の力は時間を……成長を操れる。体内に限った話ではあるが、その副産物として、その者の時間を感じることだってできる。育代は猩々たちの事、そんなにしらない。それはそうだろう。だってそんなに長い時を過ごしたわけじゃないんだから。
でも育代の力ならそれを埋められる。こうなってしまった猩々を救えるもの育代しかいないかもしれない。
「お願い……元に戻って!」
育代はそう言って猩々の体に触れてその力を発動した。




