第六十四話part1
「「「え?」」」
唖然……そんな言葉が今の小頭たちの反応を表すには一番的確だった。だっておじいちゃんもお父さんもお母さんも……そして小頭も、さっきまで勢いこんでさけんでたまま、ポカンとしてる。それはまさに唖然な状態だろう。
でもそれも仕方ない。だって……今の光景を受け入れることを脳が拒否してる。育代はあと少しで門から這い出ようとしてる猩々まで届きそうだった。本当にあとちょっと、あとちょっと――だったんだ。
でもその瞬間だ。きっとあの猩々は育代が自分の下に入ったのを確認したんじゃないだろうか? そして「しめしめ」とか思ったのかもしれない。体を持ち上げてた猩々だけど、やったのはとても簡単で単純なことだった。
ただその持ち上げてた体から力を抜いた。ただそれだけ。そうすると何が起きるのか? もちろん持ち上がってた体が地面に落ちる。文字にしたらそれだけだ。当然のことだろう。持ち上げてるときに力を抜けばそれは落ちる。誰もがわかる……小学生でだって解ける問題である。
でもその絶対的な法則が……その事実を小頭たちは受け入れたくない。だってあの巨体の下には育代が……おばあちゃんがいたのだ。そして育代は力はあるけど、その力は肉体を強化するとか、それか物理的に外に影響をもたらすような……そんなのではなかった。
肉体の内側、見えない部分に影響できるのが育代の力だった。まあそれをわかってるのはあの中では小頭くらいだが……けど絶望という面では、わかってる小頭もわかってないおじいちゃんたちも変わらない。
あんな巨体を押し付けられたらどうなるのか? 考えたら……いや考えるまでもなく想像はつくだろう。下は地面、上からは巨体。その巨体は数百キロ? いや数トンくらいはありそうな重量……となれば、別に肉体を強化とかしてるわけじゃない育代の体がペチャッ――となるのは確実だ。
「あれ?」
そして小頭は気付いた。それは小頭たちを守ってた結界。それが……夜に溶けるように崩壊しだした。
「これって……おばあちゃんが……」
その先は紡げなかった。だって、小頭はおばあちゃんの事が大好きだったからだ。それ以上言ってしまったら、その事実が確定してしまいそうで怖かった。実際は観測するまでその事実が確定されない……なんてことはない。
死亡確認しなかったら、その人は死んでないのか? といえば、そんなことないだろう。それはだってすでに起こってしまってるんだから。けどそんなことわかってても、認めたくないし、人は少しでも望みがあるのならそれにすがろうとする生き物だ。
「おばあちゃん!!」
崩壊する結界から小頭が飛び出す。けどそれをお母さんとお父さんが止めた。
「だめ……駄目よ」
「そうだ。あれに近づいちゃだめだ」
そう言ってる。小頭は納得できない。だっておばあちゃんを助けないと……と思ってる。でも、二人だってそれをしたいんだってわかってる。だって二人とも涙を流してるから。




