第六十三話Part6
幾代の背中を小頭達は見てる。幾代のおかげで音も何も聞こえないし、あの巨大な猩々というかサルというかゴリラというか、キングコングにしか見えないようなサルの起こす咆哮やら風圧、そんなのも小頭達には届いてない。
届くのは決して逃れることが出来ない事のみ。それは地面から伝わる振動だった。人間はまだ自立して飛ぶことはできない。もしかしたらこれから化学か、力が発達して行ったら、誰もが飛べるような世界が来るかもしれないが、今はまだそんな時代にはなってない。
というか、幾代が守りたい人達はそんな『力』なんてない。だから大地……から逃れる事は出来ないのだ。あの巨大なサルは地面を叩き、薙ぎ払おうとしてる。近づいて言ってる幾代の事にもちゃんと気づいてるんだろう。
だからその攻撃は真っ先に幾代に向かってる。ダメージを与えてそうなのは鬼たち二人の筈なのに、なにやらあのサルは幾代を執拗に狙ってるように見えた。けどそんな幾代を二人のナイトが完璧に守ってる。ナイトというのちょっと西洋っぽすぎるかもしれない。
なにせ彼らは鬼だ。西洋で言うところの鬼がゴブリンとかなら彼等はこちら側、日本の想像してた鬼に近いだろう。だから用心棒……とかの方がふさわしい気がする。鬼たちはその体をもってして巨大なサルの手から幾代を守ってる。
たたきつけられそうになったら、逆に蹴り上げて、薙ぎ払いにかかったら打ち返す。上面からなら、正々堂々と打ち勝ってた。いやおかしい。なにせあの地獄の門から出ようとしてるサルはめっちゃデカいのだ。
確かに鬼たちだって人間からしたらデカい。でも巨人? という程ではない。まあ世界に目を向けたら、鬼男クラスの身長の男性はいるだろう。つまりは大きな人間サイズである。
それに対してサルは数十メートルクラスの巨体だ。学校とかビルとか、数階建てといっていいそれらの建物と同じか、それ以上に大きい。きっと映画のキングコングとかよりも大きそうだ。
つまりはスケール感が全く違う。それなのに……それなのに鬼たちは正面からその巨体の攻撃を同じくパワーによって弾いてるである。これは全くもっておかしい……そう言えるだろう。
そして二人の用心棒のおかげで、幾代は門から出てるサルの毛まであと数十メートル……くらいの位置まで来てた。胴体の下に入ったといっていい。そうなると、もうあいつの長い腕では逆にどうしようもない。これなら!
「うおおおおお! よくわからんがやってやれええええ!!」
「おばあちゃああああん!」
「お義母さああああん!」
「終わらせてくれ。この悪夢を」
おじいちゃんが、小頭が、お母さんが、そしてお父さんが何かいってた。もちろん幾代の結界内だからその声はだれにもも届いてない。でもきっとみんなの気持ちは一つだと、わかった筈だ。声は届かなくても、その動きは見えてるのだから。
でも次の瞬間だった。あのサルは、急に体から力を抜いて、地面へとその体を落としたんだ。




