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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第六十三話part5

 育代の言葉を受けて、すぐに反応したのは鬼女だった。


「はぁあ!? 何すんのよ!? 今のあんたの力じゃ――むぐっ!」


 即座に否定的な事を口に出した鬼女の口を鬼男がふさいでくれる。そしてその鋭い目が育代と交差した。彼は何もいわない。けど、それだけでわかった。


『やってみろ』


 そんな目だった。違ったかもしれない。それは育代の思い込み……かもしれない。けどそう言ってくれてると受け取った育代。彼女は前に走り出す。すでに力はかなり消耗してる。余裕があれば、ある程度離れてても力の制御はできる。でも、直接力を操作するとなると、やっぱり直接触ってた方がいい。それにやっぱり遠隔だと力のロスってやつを感じてるのも確かだった。

 だから直接触ろうと思った。別にそこまで近寄る必要はないだろう。だってあの長い腕……その先に触れるだけでいいだろう。まるあその腕が一番元気よく動いてるのが問題ではある。けどそれは鬼たちがどうにかしてくれるだろう。


 大きな咆哮……それを猩々が叫ぶ。耳に太鼓を直接押し当てられているような……そんな衝撃か襲ってくる。けどそれは一種の威嚇でしかなく、巨大になった猩々の攻撃はこれからだった。その毛むくじゃらの長い腕、その片腕を横に向けて地面すれすれに薙いでくる。


 それだけでここら一体をカバーできるから、確かに何も間違ってない攻撃だ。育代たちを一気に薙ぎ払う最善の一手。けどそれを鬼男が拳を使って弾き飛ばす。それに怒った猩々がさらに叫ぶ。けど育代は立ち止まることはない。取りあえず猩々を目指す。本当なら腕に触れたいところだけど、攻撃に使われてる腕に近寄るのは自殺行為だと育代は悟った。あの二本の腕を鬼たちが防いでくれてる。

 その証拠に逆の手を開いて押しつぶそうと猩々は狙ってたようだけど、それは鬼女が蹴って防いでくれた。つまりは一番近い腕は危険極まりない……ということで育代は猩々にもっともっと近づかないといけないということだ。


「はっはっはっ!」


 胸が苦しくて脇腹も痛くなってる育代。けど必死に腕を動かして足を連動させる。年寄りのままならもうとっくに足を止めてただろう。けど今の育代は若返ってる。この姿でずっと猩々とは接してきたはずだ。


(私が分からないの?)


 やっぱりあの村にあった残滓、コケシのような黒いものが猩々を狂わせてるのだろうか? あの村に残ってた呪具……それが村がなくなっても熟成されてたのかもしれない。猩々たちはあれがやばいものだとわかってんだろう。だから回収を育代に頼んだ。

 でも、それは発動してしまった。足軽を猩々たちが狙ったのも……


(足軽にも影響が実は出てたの?)


 育代の視点ではそんな様子は全くなかった。でも足軽が優しい子というのは育代はわかってるつもりだ。それにあの力……足軽は強かった。育代は自身があの村の出身だからわかる。呪具というのは身体よりも心に影響を与えやすい。

 それは外からは見えにくいものだ。だから実は……というのはあり得る。


「私はたくさんの事を間違えたのでしょうね」


 育代は自分が過去に一人で向き合うのが怖かったせいでこうなったと思ってる。この事態はそんな弱さの結果だと。でもだからこそ、その責任を誰よりも感じて、何を犠牲にしても足軽をこの世界に戻そうと決意だってしてるようだ。

 だからこそ、必死に腕を動かして足を引っ張っていく。

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