第六十三話part4
ドゴーン! ズガーン!
そんな風に鬼たち二人は肉がついた巨大な猩々へと繰り出してる。展開が変わったが、この猩々がこの地獄の門の前に集まってた妖怪たちをすべて吸収してその体を完成させた。そして今、その門から完全に出ようとしてる。
もしかしたらこの猩々はただ自分の故郷のこの山に戻ってこようとしてるだけなのかもしれない。でも……そんなのは鬼たちには関係ないだろう。だってこいつはもうこっちの存在じゃなく、別の世界の存在? になってしまった。
100パーセントそうなのかはわかんない。確かに猩々は妖怪たちを吸収してその体を再構築した。だから妖怪たちでその体が構成されてるのは間違いないと思う。でもそれでこの世界と完全に決別したのか? というと違うだろう。
だってそうなると……
「二人とも……私たちの食事を食べてたし」
そう育代はつぶやく。もしも世界を渡ってもどってくる気がある気なら、昔からこういわれてるのではないだろうか?
『向こう側の食べ物を口にしてはいけない』
それは生者が間違って死者の世界に行ったときに迷信めいて言われることだ。三途の川を渡るときに小銭が必要だから……と棺桶に小銭を入れてたようなことと同じだろう。本当にそうなのかは誰にもわからない。でも昔からそんなことが言われてた。
そして育代のつぶやいた通り、鬼男はガツガツと食べてたし、鬼女だって弁当を何のためらいもなく食べきった。
つまり割合でいうと……鬼たちだって純粋に別世界100パーセントではない……ということだ。それでも彼らはどうやら気にしてない。育代は猩々がこのままなのは苦しいと思ってた。確かに猩々は足軽と戦ってしまったし、今や門の番人……のようになってしまった。
でも……育代はしってる。彼らは決して、ただ野蛮な生物ではない。山の奥でただ静かに暮らしてたんだ。育代が力を得たから、猩々は接触してきた。きっと猩々にも不思議な力があったんだろう。彼らは育代があの村の関係者だとわかってた。
「やめてください!」
――とは言えない育代。だってこのままだとダメなのはわかってるからだ。それにあんな大きさになった猩々が出てきたら、世間にごまかす……なんて無理だ。これまでのように山の奥で静かに暮らす? これじゃあ、山に座るくらいになりそうなサイズ感である。
どうあっても隠れる……なんて無理。ならば戻すくらいしかないけど……
「戻す?」
そうつぶやいて育代は自分の両手を見る。力はかなり消耗してる。でも……あの猩々をこのまま倒すのは忍びなかった。だから……育代はやると決めた。
「私が彼を戻します! 二人とも、拘束をお願いします!」
今度は力強い言葉を放つことができた。




