第六十一話part4
(私の力の本質は傷を治すことでも、回復させてあげる事でもないわ)
最初はそれこそ自分の姿を若くしてそれで出かけるだけで楽しかった育代。それはそうだろう。だってもう遠い記憶となってた青春……それが戻ってきたようなそんな気持ちだったに違いない。おかしな事が起きなければ、それだけでよかった可能性すらある。
でも、扉は開いた。それによってこの町には妖怪が溢れて人々の認識の隙間に奴らは入り込んだ。そして人を食らいだす。そのままにしておけるわけはない。
それにこの扉だって育代は自分のせいだって思ってる。その責任は自分にある……と。そしてそれに家族まで巻き込まれたのなら、のほほんとやってる場合じゃないだろう。これまでの戦いで育代は自分の力の本質を少しずつ理解してきてた。
ただ若返ってキャッキャッと喜んでた時期とはもう違う。この育代の力は治癒の能力じゃない。それは前提だ。だから治すというのとは違うだろう。けど鬼男が育代にはそれができる……と思ってそういったに違いない。
そして育代自身も、できないことはないと思ってる。
「小頭ちゃん、もう少し耐えて」
そういって育代は真っ先に小頭に触れた。やっぱり一番子供である小頭から救おうと考えたんだろう。
「おばあちゃん」
暗い場所で小頭はそんな風につぶやく。もちろん育代にその声は届いてない。でもこれで大丈夫……と小頭にはそう思えた。この真っ暗な空間に一人ぼっちでいるのはそれだけで不安になる。いや不安が押し寄せてきてた……といっていい。
気にしない様にしてたけど、やっぱり人間は闇よりも光を好むものだろう。闇は不安や焦燥を象徴してて、光は安心と安寧を与えてくれる。いるのなら断然あたたかな光の中がいい……というのは誰もがそうなんじゃないかと思う。
どういう風にこの空間から出れるのか……それは小頭にはわかんない。でもおばあちゃんが力によって助けてくれるのなら、小頭に不安はない。その時をまってた。
そして……
「あれ?」
なんか頭がすっきりすると小頭は思った。そして頬にあたる暖かさと頑強さと皮膚の弾力が伝わってくる。そして何よりの違いは視界だ。
今までは小さな鍵穴からのぞくようにしか見えなかったのに、今はその目いっぱいに視界が広がってる。
「私、戻ってる?」
「小頭!」
育代が小頭に抱き着いてくる。どうやらうまく育代は小頭の状態を直せたようだ。
「おばあちゃんありがとう。なんかすごく体が軽いよ」
「私は直してないからね。戻しただけ」
そんな風に育代はいってた。




