第五十七話Part1
巨大な狸の置物が消えて、白い煙が山の山頂にモワモワと広がる。けどそれも風によってすぐさま拡散していく。煙がなくなって見えるのは、何事もなかったかのようにしてる妖怪たちだ。あれは実態じゃなかった? そんな風に小頭は思った。
けどあの音は本物だった。洗脳状態だから、妖怪たちにはあの音は聞こえなかった……とか? もしかしたら妖怪たちとは聴覚的な感覚が違うのかもしれない。そもそもがあの狸の置物は人に向かってあの音を発してたとしたら?
それなら鬼男と鬼女が比較的平気そうだったのも納得できるかもしれない。
「今のは一体? そうだ! お母さん!」
一番ダメージが大きそうなお母さんに小頭はかけよった。お父さんもきてくれる。二人に心配されないようにお母さんは「大丈夫よ」とはいうけど、つらそうだ。
「我慢できなくなったようだぞ」
鬼男がそんなふうにいう。何が? と思って立ち上がって見てみると、小頭の目に門を閉じようとしてるウサギとタヌキが見えた。どっちももちろんだけど大きい。白いウサギは鬼が持ってそうな金棒を担ぎ、タヌキは亀の甲羅のようなものを背負ってる。
そしてその二匹が両側から開いてる門の扉を閉じようと押してるのだ。けどどうやら門は力で開閉するものじゃないのか、ビクともしてない。
「行くの?」
門はビクともしてないから放っておいても妖怪たちが門に消えていくのは変わらなそうだと野々野小頭は思った。わざわざあれをどうにかする必要なんてあるだろうか? ってね。けどそうじゃないらしい。
「あれ事態を投げ入れる役目を担う奴が必要でしょ? 向こうの奴らは一体でも残しておけない……そうじゃない?」
パンパンと女性なのにその腹を叩きながら鬼女がやってくる。どうやらあれだけあった弁当を平らげたらしい。なのに……小頭の視線はその腹にいく。その美しく割れた腹に。
(あれだけ食べたよね? どこに行ったの?)
そう思わずにはいられないほどに鬼女の腹は美しい。鬼男のようにボッコボコしてる筋肉が表層にまで現れてるってわけじゃなく、なだらかなんだけど、角度によってはその凹凸が見えるというね……そんなしなやかな女性的な筋肉が付いてるんだ。あのお腹を見てると、自分のお腹が気になる小頭である。
「それはそうだけど……」
お腹をちょっと擦りながらそう答える野々野小頭。そんな小頭を気にした風もなく鬼女は軽く体を伸ばしたり屈伸したりしつつ、こういった。
「食後の運動がてら悪あがきしてる奴らを向こうに送ってやるわ。あんたたちはここにいなさい」
そう言ってまずは鬼女が飛んだ。そしてそれに続く鬼男。小頭達はその場に取り残された。




