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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第五十五話Part2

「うううぅぅぅ」


 食卓を滅茶苦茶にしたお母さんはなんか人間じゃないような声を出してる。


「大丈夫かい? なにか痛いところとか!?」


 そんなふうに小頭のお父さんがお母さんに手を延ばす。お父さんはお母さんを純粋に心配して隣のお母さんに触れようとした。けどその時だ。


「あああぁぁぁぁああああああ!!」


 そんな風にお母さんが叫ぶ。そしてその声は凄くて、思わず耳を抑えてその声を聞こえないようにするくらいの声だった。明らかにそれはただの声……じゃない。声なのに圧力を感じて、窓とか戸棚の扉……そんなのがガタガタとなってた。椅子はバタンと倒れて、野々野小頭達も、僅かにその体が後方に押される。


「おかあ――さん」


 心配する小頭はお母さんに向かって手を伸ばす。けど……それが届く距離じゃない。一体何が……誰もが何が起きてるのかわかってない。でもそんな中、お父さんは変な圧力がある声を出し続けてるお母さんになんとか近づいて行こうとしてた。元々が一番近かったし、それにお父さんはなんとか食卓を掴むことで後ろに押されることを防ぎつつ、食卓を使ってなんとかにじり寄ってる。


 いきなりあんな風になったら恐怖が思い浮かんでもおかしくない。だってお母さんは普通の人間だったはずだ。確かに世界には異変が起きてて、超能力者が増えてきてる。けど、お母さんにはそんなのは無縁のような……そんな感じだった。そもそもが身近な人がいきなりそうなる……なんて誰も思ってなんてないだろう。

 そしてそれに直面した時、一体どうするのか、どんな風になるのかなんて誰にもわからない。


(おとうさんは……)


 少なくともお母さんを見捨てるような……そんな人ではなかったようだ。小頭はお父さんをちょっと頼りない大人……と思ってた。だって優しいのだ。小頭にはお父さんに怒られた記憶なんてない。小頭が娘だから……というのもあるだろう。男親は娘に甘くなるものらしい。お母さんには拒否されても、お父さんに甘えたら案外ほしいものが手に入る……というのは何回も経験してる。

 二人が仲いいのは確かだったし、それを小頭だってちゃんとわかってた。けど、いきなりおかしくなったらそれが恋も愛も冷める瞬間――かもしれないじゃないか。そんな風にならないだなんて言えないだろう。でも……お父さんは頑張ってる。少しずつお母さんに近づいてる。


「あっ!」


 ガツン――とお父さんにお母さんの声で飛んだ食器がお父さんの額に当たった。よろけるお父さん。けどそれでもグッと食卓を握って押される体を押しとどめるお父さん。そして次の瞬間ガバッとお母さんに覆いかぶさるようにお父さんがお母さんを抱きしめた。

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