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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第五十四話Part5

(不味い……)


 そんな風に野々野国人は思った。その間にも婚約者は国人の身体にその鼻先を押し付けてくる。スンスンとされてるのがわかる。実際女性にそんなことをされたらドキドキしそうなものである。

 普通ならそうだろう。野々野国人だってなんもやらしいことがなかったら、ドキドキと純粋にできただろう。男の匂いなんてそんな嗅ぎたいものじゃないだろう。それなのにクンクンしてくれるって、なんかむず痒い感じがして、嬉しくなったりしてもおかしくない。

 普通はね。なにもやましいことがなかったら「このこ俺のことすきなんじゃ……」と思える。だって匂いが好きって確か相性がいいとか、DNAが惹かれ合ってるとか……そんなのを聞いた事あるからだ。


 でも今の野々野国人は冷や汗かいてる。ドキドキも、それはトキメキではない。犯人が追い詰められるときに心臓が飛び出そうになる……あれである。


「別の女の匂いがする。これって……あの人?」


 あの人……婚約者のその言葉で浮かんでくるのはさっきまで一緒にいたあの出来る彼女である。けどそれを認めるのは不味い……という気がした野々野国人。


「それはちが――」


 そんな言葉がでかかった。けど思いとどまる。だって……だ。これまでの失敗。そして信頼の失墜はいったい何だったのか? というのが国人の脳裏に駆け巡った。それはきっと刹那の時間だったろう。人間の経験からくる失敗を回避しようとする本能みたいな……そんなのだったんだろう。だから言葉を飲み込んだ。最後までそれを言うことはなく、むしろ別の事が口に出た。


「いや、ごめん。ここに来る途中で彼女に会った。でも、そこで別れてきたから。もう会わない」


 言い訳はしなかった。本当のことをいった。それが真実だ。けど……婚約者にはそれを確かめるすべはない。それを聞いた婚約者はスッと野々野国人から離れた。さっきまで密着してたのに人一人分の距離を取る婚約者。そのぼさぼさの髪のせいで下を向くと婚約者の顔は見えなくなる。ちょっとだけ「貞子みたいだな」……とかの野々野国人は思った。

 そんなことを思ってると、婚約者はいった。


「スマホ……」

「はい!」


 単語一つ……けど、国人はすぐにそれに従った。だって別にやましいことなんかない。ならば抵抗なんてする意味はなく、むしろ悪手だろう。だからなんの抵抗もせずに国人は婚約者にスマホを差し出した。出始めのスマホは今の大型化したスマホよりもずっと小さくて、女性の手でも片手で操作できるほどだ。それを手慣れた手つきで操作する婚約者。

 なんのやましさもない……ハズだけど、野々野国人はドキドキと心臓が鼓動を打ってる。

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