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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第五十四話part3

 電車のスピードが落ちていく。次の駅名がドアの上の液晶に表示されてる。駅構内の明るさと喧騒……それが伝わってくる。止まるとき、慣性によって進行方向へと傾いたとき、もう……彼女はこっちに寄りかかることはしなかった。そして扉が開くと同時に立ち上がった。そしてその立ち姿をみて野々野国人は思う。


(きれいだな……あの時と同じで、やっぱりきれいだ)


 最初は散々な出会いだった国人と彼女。けどそのあと、意外な場所で再開して、デキル女のスーツを着こなす彼女は綺麗だった。今日はぴっちりとした下半身のラインを強調するようなパンツタイプのスーツだ。上のほうはクールビズで白いシャツだけ。けどどこかのブランドのロゴがそのシャツにはワンポイントはいってた。化粧はケバイというほど濃くもなく、だからって失礼なほどに薄くもない。美しさを魅せる絶妙な化粧加減。外はすごい雨だけど、濡れてるのは足先とかだけ。これからきっとどこかの営業先に向かうのかどうかは知らないが、仕事なんだろうし、きっちりとしてるのを心がけてるんだろう。

 大人としての責任感を感じる。姿かたちだけじゃない。そういう姿勢というのも彼女の美しさだろう。素直にそういうところは大人として尊敬できる。こういう人が上司だったら……とか思う国人だ。けどもしも同じ職場だったら、きっともっともっと惹かれてただろう。だから……国人は同じ職場じゃなくてよかった……と思う。だって今もこうやって別れを惜しんでる自分がいるのがわかるのだ。

 

「それじゃあ、ありがとう。婚約者とよりを戻せるように祈ってるわ」

「はい、ありがとうございます」


 彼女のその言葉に、野々野国人はそう返した。決して引き留めるようなことは言わない。彼女は開いたドアから出ようとする。けどその電車とホーム間で一回止まる。


「けどもし……もしもね――」


 プルルルルルルルルルルルルルルル


 それは電車のドアが閉まります――という音だった。それに彼女の言葉は掻き消えて野々野国人の耳まで届くことはなかった。彼女は前を向いてホームに出た。そしてプシューという音とともに電車の扉が閉まる。走り出す電車と、歩き出す彼女。二人は出会って、そして別れた。別々の道を歩んでいくことに納得して二人とも後悔のない瞳をしてる。

 きっともう、二人の運命が交わることはないんだろう。だって世界には数十億人の人間がいて、この東京という街も1400万人程度がいるのだ。きっとどこかで素敵な出会いがある。それが人生ってものだろう。


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