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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第五十四話Part2

ガタンゴトン、ガタンゴトン――


 静かに電車が動き出す。次の駅を表示する電光掲示板。そして広告が流れ出す。そんなのを一生懸命見つめてる野々野国人。そうしないと見るところがなかったのだ。だって左隣には彼女がいる。圧迫感を感じる。比較的電車内は空いてる。チラホラと席に座ってる人はいるが、だいたい一つ空けて座ってる。空いてるのなら、そうするのが普通だろう。


 わざわざ他人の隣に座ろうとはしない。空いてるのにわざわざ隣に座ってきたら「何だこいつ?」とか思うだろうし、もしもそれが男性が女性のまどなりに座ったりしたら犯罪者にされるかもしれない。

 だから間を開けて座る……そういうもの。けど、国人と彼女はびったりだった。肩が触れる程にぴったりだ。体温が伝わる……なんてのは迷信だろう。触れてもないのに体温が伝わるはずはない。

 ふれてたとしても、服越しでは体温なんて伝わらないだろう。温かい……と思うのはそれはきっと自分自身の体温だ。それを錯覚してるだけ。だから――


(これは俺の体温、これは俺の体温)


 ――と、野々野国人は言い聞かせてた。実際電車がガタンゴトンとなるたびに触れてる感じがしてた。そしてその度に熱が触れ合う肩に集まる気がしてた。でもそれは気の所為……そう野々野国人は言い聞かせてる。


「ごめんなさい」

「え?」


 まさか第一声が謝罪から始まるなんて思ってなかった野々野国人。だから思わず彼女をみてしまってた。なるべく目を合わせないようにしようとしてたのに、バチッと目があった。けど今度は彼女が目をそらした。前を向く。そして地下鉄の真っ暗な窓の向こうを見つめてる。


「私は、君を困らせたい訳じゃないの。でも……困ったよね。私のせい……だよね。ごめんなさい。本当は婚約破棄になったらいいって思ってた。私をもらってくれたらいいって思ってた。乗り換えちゃいなよって思ってたよ」


 自分の心情を吐露するように彼女はいう。


「でもね。最初は本当に善意だった。奪っちゃおうなっておもってなかった。それは信じてほしい。私がこうなったのは一緒に過ごすうちに楽しくなったからだよ。野々野くんは自分の事つまらないやつだと思ってるみたいだけど、ちゃんと魅力的だよ」


 その瞬間、胸がドキンと跳ねた野々野国人。何やってんだ……と思うかもしれないが、そんな事は婚約者からもいわれたことなかった。まっすぐに、そしてしみるように……自分の事を認めてくれた存在。それも異性だなんて……「魅力的」そんなのは国人には縁のない言葉だと思ってたんだ。

 けどそうじゃないと……彼女は言ってくる。しかもそれを押し付けるんじゃなく、ただ語ってる。彼女は野々野国人が自分を選ばないとわかってる。だからこれは回想みたいな……思い出を吐き出して、スッキリするみたいな……そんなものなのかもしれない。お互いが苦い思い出じゃなくしようということなのかも。

 

「ありがとう」――を最後にいって笑いあえるように、彼女は素直な気持ちをただ言ってるのかもしれない。それならば……ちゃんと聞こうと野々野国人は思った。だからきちんと彼女の言葉に耳を傾ける。

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