第二章 第五十話Part1
「野々野さん、これお願いします」
「あっ……はい」
「野々野、これどういうことですか?」
「えっと……これは……はい、すみません」
「野々野さん」「野々野さん」「野々野さん」――
「野々野またかぁ!!」
ドサッ――と家に帰ってベッドに倒れ込む。すでに時刻は0時を回ろうとかと言うところだ。彼『野々野国人』は仕事から帰ってベッドに倒れ込む……ということをここ最近ずっと繰り返してた。そんなタイミングだった。
ピロリン――
とスマホが鳴った。ポッケからスマホを出して、その相手を確認する。するとそれを確認した瞬間にガバっと体を起こした野々野国人。すぐに届いたメッセージを確認する。
『今、大丈夫?』
そんなメッセージだった。それに対してなるべく可愛い感じのスタンプを選んでOK――と送る野々野国人。するとすぐに今度はプルプルプルプルと着信が来る。それに対して国人は電話を取る。
「もしもし」
その声はさっきの疲れたアルパカみたいな声ではなく、心なしか弾んだ声が出てる。そして電話の向こうからも、可愛らしい声が聞こえてきた。
「もしもし、国人さん。ごめんなさいこんな時間に」
「いやいや、そんなのいいんだよ。それでどうしたの?」
「えっと、その良い式場見つけたんだよね。それで早く報告したいなって……」
「そっか、うん、どんな所?」
そう言って送られてきた画像を確認する国人。そこは確かに素敵な式場だった。海の近くのキレイな洋風な式場だった。チャペルというのかもしれない。電話の相手は国人の恋人だ。
大学生のときに2人は出会って、すでに出会って3年は付き合ってる。すでにプロボーズは済ませて、2人は婚約状態というやつだ。今は二人共働きながら、結婚式に向かってる。まだ新卒の2人。もちろんだけどそんな蓄えはない。2人的にはもっと落ち着いてから……でも良いとおもってた。でも2人の親が結婚式の料金を払ってくれるという。
ならば……ということで結婚式の話を進めてる。国人的にはせっかくの結婚式だ。2人の門出といっていい。それは自身の力でやりたい……とも思ってた。でもそれだと何年後になるかわからない。
けど今の時代、結婚式をしない夫婦なんて沢山いるだろう。でもできるならやってやりたいとも思うのは「愛」みたいな? それに燃え上がってるうちにしておきたい気もしてた。そんな気持ちが国人はあった。だから色々と大変だけど2人は結婚に向かって歩いてた。同じ方向を向いてて、そして夫婦になる過程の前で、一番一緒の方向を向いてる……瞬間ではないだろうか?
「ふぁー」
『あっ、ごめんなさい。国人さん、疲れてますよね。今日はこのくらいで、きちんと休んでください』
そんな風にいって恋人は国人を気遣ってくれる。2人は甘い言葉を交わして通話をきった。そしてその後、国人は眠る。
ガタンゴトン、ガタンゴトン……次の日も満員電車に揺られて会社に向かう。朝なのに国人の目は死んでいた。なんとか会社の最寄り駅で大量の死したリーマン達と共に電車を降りる。その時だ。
なにか目の前の女性がふらふらしてた。とりあえず横を通って会社に急ごう……とした時だった。女性によりかかられて、その女性はそのまま……
「うっぷ……もう、無理」
――という言葉を残してその場に……うん、中身をぶちまけた。




