第四十五話Part3
ゴロゴロゴロゴロ――幾代が顎の下を指で撫でると黒猫はそんな音を出して鳴いてる。とても警戒心が強さそうな子だったのに、幾代が近づいても逃げる事なかった。
「君は……君も一人なの?」
そんな風に幾代は黒猫に尋ねる。別になにかが返ってくる……なんて思ってはない。当然だろう。だって相手は猫だ。でも……眼の前の黒猫はちょっとだけ幾代から距離を取った。
その手から逃れるためだろう。ちょっと悲しい幾代。黒猫はどこかあらぬ方向を向いてる。そしてそっちに向かって――
「ニャニャニャ、ニャーオ」
――となく。すると……ガサガサ――と生け垣が揺れて、闇に浮かぶ2つの目。白い目がパチパチと瞬きして、そして現れたのはまるで光を凝縮したような……そんな真っ白な白猫だった。
音もなく白猫は黒猫の近くにやってきた。
「ニャ」
「ニャニャニャ」
「ニャオ!」
なんか白猫が黒猫にグリグリと頭を押し付けてる。この二匹はきっと友達なんだろう。
「そっか……友達……いるんだね」
膝に顎を乗せて、体を小さくぎゅっとする。羨ましい……と思ってるのだろうか? こんな猫にも友達がいるのに、自分には誰もいないことを……その時に幾代の頭にある男の子が浮かんだ。けど……
「友達……なんかじゃない」
そんな風に夜の闇に溶けるように言葉を紡いだ。もしかしたら溶かす為の言葉だったのかもしれない。すると二匹の猫たちが幾代の足元にやってきて体を擦り付けてくる。
「ふふ……ありがとう」
慰めてくれてるように感じた。二匹の背中を幾代はなでた。その夜、二匹は幾代が寝るまで付き合ってくれたんだ。
それからはどこからともなく、一人になると黒猫か白猫、どっちかが寄り添ってくれるようになった。人がいたら出てこないが、一人になるとどっちかが出てきてくれる。それに……
「この獣が!」
がシャン!! ――と再び花月様の足元には小さな瓶が落ちてる。闇から突然現れた黒猫に三度瓶を落とされた花月様。流石に三回目になると怒った。それに……
「ふふ、安心しなさい幾代。ちゃんと変わりは……何やっとる!?」
振り返ると祠にあった予備の瓶を白猫が加えてた。そして急いで近寄ろうとする花月様をみやって、首を横に振ってポイッとした。
カンッ――カンッカン――コロコロ……
壁にぶつかって跳ね返って、地面に落ちる瓶。勿論中身はぶちまけられた。
「きいいいいやああああああああああああああああああ!!」
そんなとても奇っ怪な声を花月様があげてた。




