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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第二章 きっと世界は変わってない
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第四十五話part1

 いつからか、カンカンカンカンカンカン――そんな音が聞こえなくなってた。


「何だったんだろう?」

「なにか言いましたか?」

「いえ……」

「さあ、今日もこれを」


 鍾乳洞の奥。あの牢屋の奥の分岐の一つには行き止まりに祠があった。何が祀られてるのかなんてわからない。鍾乳洞の壁をくりぬいたのか、元々のそのスペースにすっぽりと納まる様に祠を創ったのかはわからない。けどその祠の扉をあけて、花月様はいつもの瓶を取り出した。

 いつもの怪しい薬。その小瓶を取り出して育代にそれを差し出してくる。


「……はい」


 育代の目は震えてた。でも……悟られないためにも、育代はその瓶を受け取った。あの雨に高熱を出してから、育代の意識はちゃんともどってきてる。それを悟られないように、育代はこの村ではふるまってた。それは上手くいってるようだった。

 でも……またこれを飲んだら……そう思うと怖い。けどここで飲まないという選択肢をとることもできない。


(飲んだら吐き出す? だめ……絶対に折檻されるし、もう一つあるかも……)


 虚ろ顔を作って、なんの感情もないようにして飲むしかない。花月様は目の前で育代を見てる。逃れる術はない。だから覚悟を決めて育代は飲むしかなかった。瓶の蓋は花月様によってあけられてる。たった五センチ程度の小さな瓶だ。その中に入ってる紫の液体はその半分くらい。

 いくら育代が小学生だといっても、一口で飲み干せる量。だから誤魔化しなんてできない。育代は目を閉じた。そして瓶を唇に当てて、一気に煽る。


 その時だ。


 ガッ――カンカン……


 いつの間にか育代の手から瓶が落ちてた。地面に落ちた瓶。割れてはなかった。けど中身はその時の衝撃で出てしまったみたいだ。地面に転がった瓶には数ミリの液体しか残ってない。それを花月様が拾った。


「あ……えっと……ごめんなさい」


 とりあえず謝る育代。怒られると思った。でも……花月様は育代を怒る事はしなかった。


「あれが犯人です。全くどこから忍び込んだのか……」


 その言葉の先、花月様の視線の先を育代もみる。するとそこには闇に溶け込むような黒猫がいた。


「ニャー」


 そんな事を唸って、黒猫は逃げていった。


「全く、いたずら猫ですね。仕方ありません。今日は帰りなさい」

「……はい」


 どうやら液体は他にないらしい。もう一度祠から小瓶が取り出されることはなかった。助かった――と育代は思った。そして……


(ありがとう猫さん)


 ――と感謝を伝えた。

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