第四十四話part6
「おっはよー!」
そんな声が朝の下駄箱前に響き渡る。登校してきた生徒たちによってあふれかえってる中、ひときわ大きくそういったのは彼だ。そしてその相手は……育代だ。
大きな声に思わず彼の方を見た育代。けど、別に何か返すことはなく赤い上履きをしっかりと履いて静かに歩き出す。そんな育代の背中を彼は満足げに見つめてる。
「よう!」
そんな風にまた別の日にあいさつされた。育代は困惑してる。実際なんでそんな事をやってくるのか……それがわかんないからだ。だって別に関係が改善された……わけじゃない。学校では相変わらずに育代は彼の事を無視してる。けどそれでも……彼は毎朝挨拶してくるし、なんか話しかけてくる頻度もあがってる。でもそれに一切反応はしてない。
それでこの間……あの雨の日までは彼自身も距離をとってる感じだった。なのにあの日から彼は育代がいくら無視しても気にしてないようだ。そんな頻繁ではない。でも、一日の内にちょっと目があったり、出会いがしらとかに「よっ」――とかしてくる程度だ。別に会話になることはない。
育代が話す気はないからだ。でも……彼はそれでもいいらしい。前は育代が何も返さないことにイライラとしてた。だからこそ、むこうもイライラとするのが嫌だから話しかけてくることもなくなったんだと思ってた。
でも……どうやらもう彼は育代が何も返さなくても、無視しても、イライラとすることはなくなったらしい。それがどうしてか育代にはわからない。嫌な態度をとってるとはわかってるからだ。
「はぁー」
帰る時、そんな深いため息が出た。あの村の子供たちで固まって校門で待ってると、大きな車、ワゴンというのかそれがやってきた。そして子供たちが乗っていく。そして最後に育代も乗って車は発車した。
村に着くと「育代」と声を掛けられる。それは花月様だった。いつも豪奢な和服に身を包んでる花月様。その周りにいる供回りたちが長い花月様の服の端を持ってた。
「はい……」
育代は花月様に近寄る。そしてそんな育代を微笑んだ顔で見つめる花月様。彼女の背を押して花月様と育代は村の奥へといく。そんな光景を他の子供たちが恨めし気に見てた。
育代は決して喜んでたりしてない。寧ろかすかに震えてる。けど、この村では花月様に関心を寄せられることがとっても羨ましい事なんだろう。




