第四十四話Part4
少し時間が遡って雨もふるふる夜の方。雨の音に混じって車の音が外から聞こえた。それも一台ではない。少なくとも数台。そもそもがこの家の庭に入るのは三台くらいだろう。
でもそれでは収まってない音が聞こえる。きっとエンジンをかけたままにしてる。雨に負けないように音をきかせてる? まるで脅してるようだ……と彼は思った。
「あの村の人達よ」
それだけで彼女の迎えだとわかった。でも真っ先に彼は「なんで?」――と思った。だって彼が幾代を背負ってきたのだ。それを誰かに言ったとかない。なにせこの時代、携帯電話だってなく、勿論スマホだってない。家にあるのは電話一つ。インターネットだってまだまだの時代。
簡単に呟きが出来る環境じゃない。それに田舎道だ。幾代を背負ってた時、彼は車ともすれちがってない。スレ違ったのは幾代を拾う前だ。だからここに幾代がいるなんてわからないはずだ。
でも……やつらはきた。
「ど、どうするんじゃ?」
母に向かって彼はそういった。不安だったんだ。もしかしたら彼女を……幾代を彼らに差し出すんじゃないか? と思った。いや、それが普通だ。だって向こうが保護者なんだ。ここに匿い続けたら、それこそ誘拐……とか言われるかもしれない。
「今、お父さんが話してるわ」
不安は拭えない。父は厄介事が嫌いだ。厳しい父で、畑の事しか考えてなくて、息子の彼にも当然厳しい。頑固親父である。もしも父が普通に彼らに言って幾代を差し出すとなったら、彼に反対なんてできない。
「あいつらの事、信用できるのか母よ」
小さな彼が自身の母を見上げる。なにせ普段から彼らのこの……あの村のことを良くは思ってないのがここ周辺の町の大人たちだ。そんな風に言ってるのに、こんなときに病人の子どもを、少女を彼らに引き渡す? そんなのおかしいと彼は思う。母は彼から視線を外す。
すると彼は母の横を通って玄関に向かう。「駄目よ!」――そんな声か背中にかかる。でも彼はそれを無視して玄関に向かう。けどその時だ。
「帰られよ!」
そんな父の大きな声が響いた。彼の足が止まる。そして更に父の声が聞こえる。
「そんな者、知らん。変な事を言うな。知らぬと言ってる!」
きっとあの村の者たちがなにか言ったんだろう。でも父は譲らなかった。毅然とした父の態度によって、あの村の者たちは去っていく。父も部屋に戻って来る。その時、彼と目があった。
でも……父は何も言わなかった。ただ「ふん」――と鼻を鳴らしただけだ。




