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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第一章 超能力に目覚めた少年
300/871

299P

「ただいま」


 そんな事を言って玄関のドアを開ける野々野小頭。恐る恐るって感じで中に入ったわけだが、中から聞こえるのはテレビの音と、それから台所から漂ってくる夕食の匂いだった。


 勢い込んで駆け込んできて「大丈夫!?」なんて言われない。でも野々野小頭は「それもそうか」と納得する。てか安心した。今日、野々野小頭は病院に搬送とかされたわけだし、なんなら身体を滅多刺しにされた。


 普通なら病院に家族が飛んできてかなり大変なことになるはずだ。いや、だった。でもどうやら野々野小頭の自宅は何も変わりがないようだ。家族には何もバレてない。それを彼女は「良かった」と思った。


 余計な心配なんてかけたくないと思ってた。これが本当に傷もそのままにめっちゃ痛くて病院で一人ぼっち……とかなら家族が恋しくなっただろう。でも、すでに野々野小頭には傷ひとつ無い。痛みだって、恐怖だって……すでに薄れてきてる。いや、思い出さないようにしてる、といったほうが正しいかもしれない。


 それなのに、家族がいちいち掘り返してきたら、もう野々野小頭にとっては終わったこと……なのに面倒くさくなってしまうだろう。勿論、それは家族としての心配にほかならないのかもしれない。でも野々野小頭は思春期の女の子なのだ。過度な干渉を受けると、仕方ないことだとわかってても鬱陶しく感じてしまう。


 だから何も知らないで居てくれてよかった……と思った。


「あら、小頭遅かったわね。もう夕飯出来るわよ」


「うん、手洗って着替えるね」


 いつも通りの変わらない母親の反応。なぜだか、ドキドキとしてしまう野々野小頭だ。別に野々野小頭は悪いことなんて一つもしてない。だから自分が大変な目に有ったことを家族に秘密にしてる……ということが、ちょっと心に引っかかってるのかもしれない。


「うん? 服、変えたの?」


 ドキッ――とその瞬間、野々野小頭の心臓が跳ねた。顔を見たくて、台所まで行ってしまったのが間違いだったとこの時、野々野小頭は思った。そうじゃなかったら、玄関からすぐの二階へと続く階段をのぼって部屋で着替えて顔を見せればよかったのだ。それなら、朝にでかけたときと服が変わってることにも気づかれることはなかった。


 ちょっと考えればわかることだった。男たちなら服が変わっても気づかなかった可能性は有ったかもしれないが、同じ女性の母親には流石に気づかれないなんてことはなかった。


「あぁ、うん。ちょっと汚しちゃって。友達に借りたんだ」


「全身?」


「う、うん、ちょっと派手に汚しちゃって」


 苦しいか? とか自身でも思いながらそう言うしかなかった野々野小頭。母親はジッと少しの間野々野小頭を探るように見てくる。でもすぐに優しく微笑んだ。


「そう、ならちゃんと友達にはクリーニングして返さないとね。後で服を出しといてよ」


「う、うん」


 そう言って野々野小頭は母親の目から逃れるように、部屋を目指した。すると階段の所で兄である野々野足軽と鉢合わせた。けどそれだけだ。いや、「おかえり」とか言われたが、野々野小頭はその声に応えること無く、足早に野々野足軽の横を過ぎて自室へと入った。


 パサパサと服を脱ぐ。家にはジャージではなく、実際きちんとしたオシャレな服を着て帰ってきてた野々野小頭だ。流石にジャージはないよなって事で、なんか色々と大川左之助たちのスタジオには服もあったのだ。


 だからそれをもらった。実際高い服しかなかったから、全てはブランドものだった。でもそのせいできっと怪しまれたんじゃないかな? と野々野小頭は思った。けどそれよりも……である。自室で改めて野々野小頭は身体をみた。


 下着姿になった野々野小頭は姿見にその体を映す。そこには確かに傷ひとつ無い身体が映ってた。いや、一度ちゃんと確認とかしたんだが、やっぱりこうやって自室で自らのいつもの身体を見ると、本当に今日のことが真実だったのか? て野々野小頭自身が思ってしまう。


 それほど、野々野小頭の身体は綺麗なままだった。

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