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ある日、超能力に目覚めた件  作者: 上松
第一章 超能力に目覚めた少年
277/871

276P

「ふん!」


 そう言ってアンゴラ氏は気合を入れた。そして二つの直角に曲がった銀色の棒を両手に持ってる。気合を入れてるからといって、彼は手に力を込めてるわけじゃないだろう。


 ただの意気込みみたいなものだ。


「ふーはー」


 目を閉じで、更に集中してる感じを醸し出してる。けど何かが起きる……って事はなかっ――


 カタ――カタカタカタカタカタ


「おお!」


「う、動いてる?」


 ミカン氏が興奮して、野々野小頭が驚いてる。それもそうだろう。なにせただ軽く持ってるだけのダウジングの棒がすごく小刻みに震えてるんだ。普通ならそういう「力」って奴を疑ってる野々野小頭なら「どうせ動かしてるんでしょ?」とか真っ先に言うはず。


 けどそんな言葉もなく、普通に驚いてる。それはただたんにアンゴラ氏が自身の腕の動きで動かしてないってのがわかるからだ。彼の身体……そう一番ダウジングに触れてる手は全く動いてない。けど……なぜかダウジングの棒だけがひとりでに動いてるのが見てわかった。


 だからこそ、野々野小頭も「信じられない」って声をだしてる。けど……次第にその震えは緩慢になっていく。


「ダメだ。これ以上は俺には無理なようだ」


 そんな風にアンゴラ氏はいった。どうやら上手く力が伝わらないってことらしい。そしてワンセットのダウジングの棒を持ってチャブ氏にそれを差し出した。


「やはりこれを扱えるのは貴方だけだ」


「ふざけんな。俺じゃ震えることも無いっての」


「そんな訳無い」


「適当なコトをいうな!」


 やっぱりチャブ氏はそれを受け取ろうとはしない。まあ仕方ないよな。だって普通はただ震える……なんてこともしないだろう。専売特許のダウジングで後から彼が一ミリも何もならなかったら? きっとオカルトオタク……そしてそういう不思議に憧れてここまで中二病をこじらせてきた彼としては心がポッキリと折れてしまうかもしれない。


 実際ここに来るのだって……再びこのメンツで集まるのだってチャブ氏は考えたんじゃないだろうか? 自分にはない「力」ってやつに目の前で覚醒されて……それなのに自分にはなにもなくて……ってなったら、どうしようもない現実が襲ってくるだろ。


 ハッキリ言って、こういう中二病をこじらせてきた奴らは皆どこかでまだ自分はどこか特別なんだ――という願いを捨てられずに居るんだと思う。でも本当の特別はそこにいて……そして結局のところは、自分自身には何も『力』的な物が現れることはなかった。


 それって本当に彼からしたら嫌な現実だ。本当に自分は特別なんじゃない……ただの平々凡々な存在なんだと……分からせられる。アンゴラ氏と居るだけでそう思うだろう。


 だからチャブ氏はこの集まりに金輪際ってこともありえた。けどここに来たのはまだ何かを諦めてないからなのかも……


「適当じゃないですよ。だってあのとき、チャブ氏は自覚なかったかもしれないですけど、チャブ氏だって力を発現してたんです」


「そんな訳……」


「いいえ、そのはずです。だってあのとき、貴方のダウジングの棒は宙に浮いて回ってた。あれはきっと、貴方の力だったんですよ!」


「そんな……バカな……」


 そんな風に自身の手のひらを見て震えてるチャブ氏。普通ならそんな事は一蹴されて当然だろう。それに彼らは大の大人である。それに良い年した。20代前半とかの大人になりたて……とかじゃない。すでに誰もが30代である。


 それなのに……皆真剣。けどだからこそ彼らは『不思議』を追ってるんだろう。いつまでも子供心を忘れてないってみたいな童心の集まり。


「信じてください。自分を」


 そう言って差し出すそれをチャブ氏は手に取る。野々野足軽はそんなやり取りをみて一人――


(そう来たか)


 ――と思ってた。

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