223P
ビルが揺れるほどの振動が起こり、そしてそれは周囲にまで伝播したかもしれない。いや確実にしただろう。きっと周囲の家では「地震か!?」とかいうやり取りが起こっててもおかしくない。そしてそれの震源地では埃が舞い散って視界が遮られてた。それに……だ。
「うおっ――と」
そういって鼻ピアスの金髪がぴきぴきと亀裂が入った床に気を付ける。たくさん殴られた跡があるが、金髪も赤髪も案外元気だった。実際喧嘩慣れしてるのだろう。だから回復も早い。
「はは……あんたが悪いんだぞ……」
「ああ、あんたが俺たちを裏切るから……」
そんな風に言う二人。けどどこかさみしそうにも見える。流石にこれだけのことをやったのならいろいろと覚悟があったんだろう。なにせ鉄骨やら落としたんだ。ビル全体が……そしてその周囲にも伝わるような揺れまで起こった。
つまりはそれだけの衝撃だということだ。そんなのをまともに受けたとしたら、もしも筋骨隆々な2メートル近くの巨漢だったとしても人間である以上命は助からないだろう。
そしてこいつらがどれだけ馬鹿だとしても、確実な殺意と共にこれの準備をしてたはずだ。だから、最初から殺すつもりでこんなことをしたという事。
「さっさと逃げるぞ」
「ああ、あんたとはこれでサヨナラだ」
どうやら彼らはこれから高飛びでもするつもりらしい。そもそもが根なし草……誰も彼らを引き留めるような奴らはいない。寧ろこいつらがいなくなったら、よかったと思う人の方が多いだろう。それを自覚もしてる。だから未練も何もないんだろう。
もともとそんなに荷物もなかった二人おいてたリュックを取ってこの場をあとにしようとした。けどその時だ。
『待て』
そんな声がこの場に響いた。そして二人はそんな声と共に、体が硬直する。信じられない……そんな思いが二人の体を縛った? それもあるかもしれない。二人はとりあえず信じられないが、声が聞こえた後方に顔を向けた。
まだ埃は満ちててその悲惨な状況は見えない。でも見えなくても二人にはわかる。結果なんてわかってるはずだ。
「おい、今の……」
「いや、きっと気のせいだ」
「だ、だよな」
二人の思い描いてた結果になってるのなら、生きてるはずはなんてない。だからこそ、今の声は気のせい……そういう事にしようとしてる。それに……だ。それに本当に上手くいったと二人は思ってる。
なら、生きてる可能性なんてのは一パーセントだってない。犬と共に肉片になってると信じて疑ってない。なのに……
『なぁ、待てって言ってるんだよ』
確実にその声は埃の向こうから聞こえて来てた。




