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お題:寒い広告 タイトル:開かないトビラ

親はいつも勝手だ。


暇さえあれば口を酸っぱくして勉強をしろという。


そのくせ、いざ勉強を始めると、無遠慮に部屋に入ってきてテレビの話をしたりして邪魔を始める。


まるで嵐のように場の雰囲気を乱すだけ乱すと、挙句には部屋の扉を開けっ放しにしてようやく去る。


ただでさえ集中力を発揮することは難しいのに、夕餉や風呂と妨害される機会はことさら多い。


いっそのこと、どこかの隔絶された部屋に押し込めてくれたら良いのに――


「どうして扉を開けっ放しにしていくんだよ。いつも閉めてって言ってるだろ!」


その傍若無人さを見かねて、ぼくがいよいよそのことを強く指摘すると母は不敵に笑った。


「あら、本当にいいのかしら」


「良いも悪いもあるかよ。だいたいノックもしないで、それが大人のやることかよ」


「あんたはクソガキのくせに口だけはいつも偉そうね」


「そりゃあ、アンタの子だからね。憎むなら遺伝子を憎んでくれよ」


なにかの火蓋が切って落とされたように、母が木製の扉を力強く叩いた。


「じゃあ、本当にいいんだね? 閉めきっても?」


「ああ、そのほうがせいせいするよ」


深い考えもなく、ぼくがいつものように返事をすると、母は珍しくそこで悪態をやめた。


「それじゃあ、そうしなさい――」


ぱたん。


扉が閉まった。


(ほんとう、勝手なもんだよ。オトナって)


そして、ぼくは静かになった部屋で勉強を続けた。


すっかり我を忘れた。


そのめざましい集中力はかれこれ三時間ばかり続いたらしい。


時計の針は夜の九時を示していた。


(さすがにおなかがへったな……)


ぼくはその時になって、ようやく異変に気がついた。


机を離れ、扉を開けようとすると、その扉が開かないのだ。


「へ……?」


途端に背筋に悪寒が走る。


なぜなら扉に鍵はないはずだからだ。


だからこそ母親はいつも自在に部屋に立ち入ってはぼくの邪魔をしていた。


では、どうして扉が開かないのか……?


ぼくは今度は半ば力づくで、無理矢理にドアノブをひねろうとする。


しかし、強力な接着剤に遮られるように、ハンドルは微動だにしない。


「……冗談だろ……?」


「反省する気になった?」


扉の向こうから声が聞こえる。


ぼくの嫌いないつもの勝ち誇った声だ。


屈服してはならない。僕はそう誓った。


「じゃあ、一生、そうしてなさい」


そして僕は本当にそこで一生を過ごすことになった。

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