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お題:嘘のプレゼント
「どうしてぼくは生まれたの?」
母はなにも答えなかった。
いつもの慣れた所作で雑巾を縫って、ほおにしわを寄せてただ笑うだけだった。
父も黙ったままだった。
テレビの偉い人たちのように難しそうな顔で机に広げた新聞紙に視線を落としている。
でも父と母は普段は喋らないくせに、なにかを始めようとすると必ず口を酸っぱくして否定した。
部活動や進路の選択。それからたかがアルバイトを始めるだけでも揉めたものだった。
どうして、そうするのか――両親が共に尋ねてきた内容だ。
ぼくの質問には答えないのに随分と傲慢なものだと当時は呆れたものだ。
……涙を流しながら、ぼくはついそんなことを思い出した。
父はすでに土の中、母はまもなく生涯の眼を閉じようとしている。
「ようやく分かったよ。ぼくが生まれた理由」
そう告げると、母は黒い瞳だけを動かしてぼくの顔を見返した。もう彼女は声が出せない。
「……分かったんだよ」
ぼくはそれだけを口にして、だまって母の手を握った。




