お題:狡猾な衝撃
いつからか心の中にボタンがあった。赤く、丸い、不思議なボタン。
それを初めて押したのは姉に私のお菓子を食べられた時だった。
甘くて白いショートケーキ。
友達のうちに遊びに出かけたわずかな時間を見計らって、姉はそれを容赦なく奪ってしまった。
散々に泣き喚いて、姉を責めた。
でも戻ってきたのは謝罪の言葉だけ。
それも感情の籠もっていない、母親に無理矢理に言わされただけのふてぶてしい態度で。
悲しみよりも怒りがこみあがってきた。そして時間が経つにつれてやっぱり悲しくなった。
あんなに楽しみにしていたのに。ふんわりと柔らかい生地に乗った真っ赤な苺。
真上からフォークで突き刺し、スポンジの中に沈み込んでいく手応えがたまらなく好きなのに。
それが初めてのボタンだった。
涙で濡れたまぶたを押し開くと、そこには誰が用意したのかケーキが用意してあった。
魔法のように忽然と現れた私のショートケーキ。
事実、それは魔法だった。
学校に忘れ物をした時にも、そのボタンを押せばたちまちに筆箱が机に現れた。
テストの問題が分からないときにも、そのボタンを押すと答えがたちまちに思い浮かぶ。
そして嫌いな男の子のことを思うと、彼はいきなり転校することになった。
私は楽しくなった。
この世はすべて思い通りになるんだ。そう確信した。
でも私は思いとどまった。
ある日、母親が倒れてしまったからだ。
本当は気づいていた。ボタンを押すたびに母親が痩せていたことに。
そうして私はもうボタンを押すことをやめた。
15分で書ききれなかったので、少し付け足しています。




