表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

オオカミ青年   お題:希望の表情

はじめてうそをついたのは初めてのおつかいだった。


「どっかでおかね落としちゃった」


当時ハヤっていたお菓子の玩具がどうしても欲しかった。


すぐに母親は怒った。それから少し笑っていた。


高学年になると、急にテストの成績が気になりだした。


「おまえの答案? そんなの見てないよ。ばかじゃないの」


またしてもウソをついた。しっかり隣の女の子の答えを見ていた。


でもやってないと言い張れば、なんの問題もなかった。


やがて罪悪感が消えようとしていた。


家のお金や店の商品までも無断で盗むようになった。


うまくやればバレることはない。


そう確信していた。


お天道様が見ているから悪いことはしてはいけない。


そんなのは嘘だ。太陽は光る以外に能を持たない。


世の中は悪い人ばかりだ。


ただバレていないだけ。


先生だって、黙って踏切を乗り越えていた。


大人だって平然とタバコを投げ捨てる。


赤信号なんて守っている人が少ない。


ニュースを見れば国を守る政治家だって悪いことをしている。


だれもかれも嘘をついている。


だから自分だけが悪い道理はない。


のらりくらりとぼくが高校生になった頃、急に自宅から一報が入った。


病院に駆けつけると、白いベッドの上に母親が倒れていた。


ひどく痩せていて別人のようになっていた。


いったい、いつからこんなに老けていたんだろう。


彼女は死に瀕する際、ぼくに言い残した。


「ぶじに生きていくんだよ」


涙が止まらない。


「ふざけんなよ。勝手に置いていくなよ。そんなことしてみろ。お母さんのことなんて本当に嫌いになるからな」


ぼくはまたしても嘘をついた。嫌いになるわけなんかない。


そして母は死んだ。


ぼくは今でもうそをつく。


けど、その度に母親の老けた顔を思い出す。


相手にそういう表情をさせてはいけない。


それだけの心を持つようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ