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きらめきの炎 お題:黄金の小説家
男は筆を進めていた。
あくる日も飽きもせず、ただひたすらに熱中した。
常に白紙の書物を携帯していた。
外に出かける時はもちろん、寝床や厠にでさえ持ち運んでいた。
なにか物事を思いつく度に鉛筆の芯を潰し、思いついた想いを次々に文字にして書き下ろした。
もう何冊目になるだろう。
男の記した紙は部屋の大半を占めていた。
まるで荒崖のように積み重なった無数の記録たち――
それらが一瞬にして灰になっていた。
ちょっとした偶然と顔も知らぬ者の無法さが、部屋に炎をもたらした。
めくるめく野次馬と火消しの群衆の波。
光と影。両者があわただしく交錯している。
頭上の大気を切り裂いて、圧力のこもった放水がまっすぐに家を打ち抜いていた。
どうしてだろう、体が動かない。
男はその場に立ち竦んだ。
ほおに涙が流れる。
まるで心を燃やされているような気分だった。
もしかすれば神に背徳したのかもしれない。
男はそんな予感をめぐらせていた。
きっと深く考えすぎたのだ。
生きること、だれかを殺すことを。
世界が金色に輝いていた。
そして、まもなく暗闇が訪れるのだろう。
いつものように。




