タイトル:心のナイフ お題:僕と動揺
ぼくはすっかり引きこもっていた。
どうしてみんなは悪口をやめないんだろう。
だれもが色んな噂に興味を持って、あちらこちらへと耳を忙しく傾けている。
それが相手の弱みだったりすると、ここぞとばかりに楽しそうに笑みを浮かべる。
友達も、親も、学校の先生も、テレビの人も、だれだって悪口が好きだ。
多分に漏れず、ぼくも好きだ。
こてんぱんに言い負かした時なんてなんともいえない最高の気分になる。
まるでかけっこで一等賞でもとったような高揚感だ。
だけど悪口を言われることは好きじゃない。むしろ大嫌いだ。
心は激しく動揺するし、とても嫌な気分になる。
誰だってそうだと思う。
だからこそ分かることがある。
みんなは悪口を言われたくないから、悪口をいうのだろう。
叩かれないようにするため、武器を捨てずに構えている。
心の内側にナイフのような鋭利な物を持っている。
振り回すのは簡単で、それを使わないようにすることは難しい。
そして、切られた傷はなかなか戻らない。
心は土のようなものだ。
シャベルを持って地面に穴を作ったとする。
そのできたばかりの穴に土を被せても絶対に元には戻らない。
どこか他の場所とは違って黒ずんで見えてしまう。
どれだけ見ても戻らない。
けど、彼女は教えてくれた。
「そんなもの、しばらくほっておけば、気づかなくなるじゃない」
風が吹き、雲が流れ、雨が降り、土は自然にならされた。
数日後、ぼくが掘った穴を見に行くと、その形跡はどこにも見当たらなかった。
疲れたときは休めばいい。
ただそれだけのことだった。




