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ルシフェリック☆バースト!  作者: めらめら
第1章 滅びの兆し
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吸血の宴

 公園の夜気をブズブズと震わす不快な羽音。怒りの琉詩葉をレギオンの黒煙が覆った。


「やれ!」

 琉詩葉一声。裂花むかって翔んでいく、人喰い羽虫の大軍団。


 琉詩葉、口元を厳しく結び錫杖を構えて裂花に意を集める。

朝方とは違う。この距離ならばレギオンの『制御』も容易。

なあに軽く痛めつけて、彼女に泣きが入ったら許してやる!

琉詩葉、心中でニヤリ。


 だがなぜだ。


 わあああああん……!


不気味な羽音は少女に達する前に薄まりかすれ、闇夜に消えた。


「あれ……?」

 目を丸める琉詩葉。裂花に集るはずだった虫どもが、琉詩葉の意に反して公園に四散したのだ。


「琉詩葉ちゃん、轟龍寺先生に効かなかった技が、私に効くはずないでしょう?」

 裂花、嘲るような笑みを浮かべて琉詩葉に間合いを詰める。


 ちらり、ちらり。

ん……琉詩葉は気付いた。裂花の周囲を、はさはさか弱い音をたてて何かが舞っている。


「あ……!」

 目を凝らした琉詩葉は我知らず驚嘆の声を上げた。


 蝶だ。蝶だ。


 いつの間にか裂花が左手に下げていたのは幾つもの松葉の虫籠。

虫籠から何百頭もの黒翅の蝶が溢れでて、闇に紛れて少女の周囲を舞っていたのだ。


「無明流蠱術『夜霞散華』……技前は私の方が上みたいね!」

 鈴の音の様な声で裂花が嗤う。


 蠱術の使い手!愕然の琉詩葉。

琉詩葉が用いるのは食い意地ばかりが取り得の羽虫の軍団だが、この少女は蝶を使うのだ。


「あ……あれ?」

 思わず後ずさろうとした琉詩葉は、おかしな事に気付いた。

膝に力が入らない。目がかすむ。体が……痺れる!

琉詩葉はようやく、自分の手足にさらさらと降りかかってくる微細な粒子に気がついた。

裂花の蝶の翅から舞った真っ黒な鱗粉だ。


「『夜霞』の効果……そろそろかしら、どう琉詩葉ちゃん?気持ちよくなってきたでしょ?」

 耐え切れず膝をついた琉詩葉の前に立ち、裂花が冷たく嗤った。


 毒鱗粉!

気付けば琉詩葉、敵の術中。

彼女は、羽虫が裂花から退散した理由を、今身をもって味わっていた。


 片や座し片や得意に立ち嗤う、二人の少女を覆う影。

彼女らを包むがように音も無く、黒翅の蝶が舞っているのだ。裂花の徒ヤミアゲハの大群だ。

蝶たちが撒き散らす濛々の鱗粉が公園を照らす月光を不吉に濁していた。


 しるるるる。

擦れた音を立てながら、琉詩葉の頸に何かが巻き付いた。


「う……うそ……」

 蝶にあてられ、身動きの取れない琉詩葉が驚愕に目を見開いた。


 髪の毛だ。


闇になびいた裂花の豊かな黒髪が、まるでそれ自体が生きているかのように蠢きのたくり絡まって、琉詩葉の首を絞めあげているのだ。


「あ……ああ!」

 苦悶の声をあげる琉詩葉。

黒蛇のような髪がずるずるとうねると、彼女の顔を無理矢理に裂花の口元に引き寄せたのだ。


「大冥条の秘蔵っ子というから技を試せば、まさかこの程度とは……せつなには悪いけど、このまま頂いてしまおうか……」

 裂花、琉詩葉の耳元でそう囁くや否や……


 べろり。


琉詩葉の頬に垂れる血を、裂花の真っ赤な舌がいやらしく舐めとった。

「な……!」

 裂花のあまりの怪行に声も出ない琉詩葉。


「なるほど、確かに血は濃い、これは上々……」

 おお見ろ、口の端に着いた血の染みをチロチロと舐めまわしながら、端正な顔を淫らに歪ませた裂花の貌を。

紅玉のような眼を爛々と光らせて、少女は晶石の短刀を琉詩葉の頸にあてがった。


 しぱん!

短刀が琉詩葉の側頸を浅く、裂いた。


「いぅ!」

恐怖に竦む琉詩葉の肩を抱いて、魔少女が琉詩葉の頸に、ゆっくりと口をつけた。


  ぴちゃり、ぴちゃり。


 なんという妖しさよ。

苦痛と恥辱に震える琉詩葉の髪をうずうずと弄りながら、彼女の首筋の創を執拗に舐めまわし血を啜る少女の不気味。


「ふぃぃぃい!!」

 声にならない悲鳴をあげる琉詩葉。見開かれた彼女の瞳がおぞましさに散大した。

だが琉詩葉その場から動けず。多くの蜘蛛は、捕食の武器として獲物を麻痺させる毒を用いるが、裂花の黒蝶もまた、彼女の捕食の武器なのだ。


「う……ぁぁぁぁはぁ……」

 なんたること、毒燐粉にさらされ痺れて行く琉詩葉。もはや痛みさえ薄れた彼女は、逆に陶酔の吐息すら漏らし始めたではないか。


万策尽きたか。だがその時、


「ぴきゅ~~!」

 あ、琉詩葉の胸元から飛び出した何かが、裂花の無防備な白い喉に噛みついた。


「なに!」

 咄嗟の事に呆然の裂花。慌てて両手を喉にかけ、噛みつく何かを引き剥ぎ投げ打ち目を遣った。


「ぴきゅぴきゅ~~!」

 ……つちのこだ。

地面から裂花を威嚇するのは、琉詩葉が朝方呼びだした金色のつちのこだった。


「琉詩葉ちゃん、こんなものを、まだ……」

 つちのこに気をとられた裂花、琉詩葉を絞めあげる黒髪の縛めが一瞬緩んだ、その刹那!


 ずどん!

裂花の左肩に、何かが突き刺さった。


「あああ!」

 端正な顔を苦痛に歪ませ琉詩葉を向いた裂花は左肩を貫く異物の正体を知った。

錫杖だ。琉詩葉が最後の力を振り絞って握った錫杖の柄が、裂花の左肩に深々と突き立てられていたのだ。


「へへ……脇見……厳禁……!」

 唇の片端を苦しげに歪めて、琉詩葉がニヤリと笑った。


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