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ルシフェリック☆バースト!  作者: めらめら
第3章 浮上!邪神学園
30/33

戦火のローレライ

 ぴしゃり!

暗雲から放たれた稲妻が、棲舞愚の巨体を直撃した。

「ぐがぁああああああ!」

 銛に繋がれ雷に撃たれ、苦痛に校庭を転げる赤金の巨龍。

だが、その動きには弱まる気配が全くない。


 なんという怪物だ!地獄の劫火も、稲妻の鉄槌も、この龍に対しては致命の攻撃たり得ないのだ。

エナは眼前で暴れる巨龍の姿に、再び身震いがした。だが……


 ばちばちばちばち!

何かがおかしい、巨龍の全身から飛び散る金色の火花(スパーク)が、雷撃の名残りが、一つ所に集まっていく。


「くそーーー!暴れるなって!こいつーー!」

 暴れる巨龍の背後から、野太い声が聞こえた。


「あぁ!」

 エナは気付いた。

金色の雷光の集まっていく先は、不気味に撓る棲舞愚の長い尾の先端。

その先端に掴まっていたのは……


「電磁郎先生!」

 思わず声を上げたエナ。

無茶苦茶に振り回される巨龍の尻尾に、必死でしがみ付いていたのは、テンガロンハットを目深にかぶった生活指導主事。電磁郎だった。

左手に握られているのは『裁きの教鞭』。革製の鞭を龍の尾ビレに巻き付かせて、どうにか振り落とされないでいる。


 そして右手には……!

右手には、棲舞愚の全身から集まって来た雷撃の輝きが集中していく。

 ぐぐ!

教師が、右手の中に形成された光の束を固く握りしめた。

次の瞬間、その手に在ったのは金色の火花(スパーク)を煌かせた、ひと振りの光の(やいば)

電磁郎の秘術、『雷光剣』だった。


「でーーい!天幻寺!もっとしっかり押さえとかんかー!」

 電磁郎が眼下の影にそう叫んだ。


「無茶を言うな電磁郎殿、こっちはこれで、精一杯!」

 龍の影から天幻寺の声。


 ずずずずず。


「執事さん!」

 エナは目を見開いた。


 おお、暴れ回る巨龍の影から立ち現われた長身麗躯の天幻寺。

その両脇に抱えているのは、彼の身の丈と同じくらいある、巨大な二挺の銛打ち銃だった。


 これが、天幻寺夜斗の秘術、『虚式影法(こしきえいほう)』だった。

あらゆる事物に生じた影に潜泳し、敵の間隙を討つ影界潜行者(シャドウダイバー)。狙われた標的は逃れる術の無い恐るべき暗殺の技だ。


 ぐん!

 

 天幻寺が、手元の銛打ち銃から伸びた縄を、大きく引いた。

鋭いアンカーで棲舞愚の腹と足に食い込んだ銛が、巨龍を再び地面に引き寄せる。


「おのれえ小癪な!」

 怒りに燃える棲舞愚が、その身を再び、大きくのけぞらせた、その時、


「今だあ!」

 一瞬のタイミングを逃さなかった電磁郎。

振り回された尻尾から、巨龍の背中に跳び移り、更には一足跳びに、その頭頂に駆けあがった。


「七部衆『棲舞愚(すまうぐ)』討ち取ったり!」

 棲舞愚の頭上に立った電磁郎。

教師は、そう叫ぶなり、右手に構えた金色の雷光剣を、巨龍の脳天めがけて振り下ろした。


「しまったぁ!」

 愕然の棲舞愚、必死で頭を振って電磁郎を振り払おうとするも……

ぐさり!肉を抉る音、雷光剣が深々と巨龍に突き立てられた。


「やったか……」

 目を輝かす電磁郎。一瞬肩の力が抜ける。だが……


「ぐおおおおおお!」

 棲舞愚が咆哮して、頭部を無茶苦茶に振り回した。

うわあ!電磁郎、たまらず龍の頭部を転げ落ち、その体は校庭に、怒りに燃える棲舞愚の正面に投げ出された。


 なんということだ。

大揺れの頭部で足を取られた電磁郎の雷光剣は、龍の頭頂を逸れて、その鼻先に突き刺さっていた。


「やってくれたな、(わっぱ)ども……!」

 龍の残忍な眼が、憤怒に爛々。

ごおお。雷光剣の突き刺さった鼻先から、大きく裂けた口から、炎の息吹きが漏れ始めた。


「ぐうう、逃げろ!電磁郎殿!」

 棲舞愚の腹の下から銛を引き、必死で龍の巨躯を繋ごうとする天幻寺。

だが彼一人の膂力ではそれもかなわなかった。


「消え去れゴミムシ!」

 棲舞愚がその顎から、電磁郎に向かって劫火を吐かんとする。まさにその時!


 

 ……おやすみなさい 坊や 冷たく凍った(かいな)に抱かれて

  栗鼠も眠りました 兎も眠りました 狼も 梟も 椋鳥も 蛙も

   雪虫たちが舞い飛ぶここで 覚めているのは あなたとわたし ふたりだけ

    おやすみなさい おやすみなさい 坊や わたしの凍ったかいなに抱かれて……



 なんだ?

巨龍は辺りを見回した。歌だ、猛火の戦場に、歌が流れている。


 優しげだが、凛として冷たくも聞こえる女の歌声が、哀しげな調べにのって校庭中を渡っていく。


「おお、これは、まさか!」

 立ちあがった電磁郎は、龍から逃げるのも忘れて、歌声の元を辿った。


「この歌……!」

 エナは、うっとりと頭上を仰いだ。


 ああ。歌声の主は、校舎の屋上に立っていた。

雷光瞬かす暗雲を背に、屋上の縁に可憐に佇んでいたは、一人の女。

両手をひろげて空を仰いで、夢見るような表情で歌っているのは、青磁色のスーツも艶やかに映る美貌の教師。


 エナのクラスの担任で学園の音楽教師、昏樹魔衣(くらきまい)だった。


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