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ルシフェリック☆バースト!  作者: めらめら
第3章 浮上!邪神学園
29/33

出陣!夜見の衆

緋獄嵐流(ひごくらんる)!!」

 ぱちん。

抜き放たれた日本刀『花殺(はなあや)め』の切っ先から、瞬間、火花が散った。


 とたん、ぼおおお。

着流しの老人の目の前に吹き上がった、真っ赤に渦巻く三本の火柱。

(ほむら)は城!(ほむら)は石垣!」

 獄閻斎が刀を振るって号令。

見ろ。彼の声に応じるように、火柱が老人の正面に集結し、寄り合わさると、一個の巨大な焔壁(ファイアウォール)を形成したではないか。


 ぼふう。

おお。棲舞愚の吐きだした劫火が、焔壁に阻まれて、濛々と散った。壁の後ろに立つ三人は無事だ。


「ぬうう!」

 棲舞愚が、炎を吐きながら呻く。

龍の吐く紅蓮を、人が紅蓮で防ぐとは!爬虫の三日月の様な目が、怒りでさらに細まった。


緋獄特攻(ひごくとっこう)!!」

 獄閻斎さらに一声。焔壁が、炎の舌で地面を舐めながら、校庭を前進し始めた。

なんと、焔壁は龍の炎を阻みながら、徐々にその形状を変え、棲舞愚の巨体を包囲する紅蓮の円筒になった。


「なにぃ!」

 気付けば、一瞬で攻勢から守勢に。蝙蝠の羽を震わせた巨龍の瞳に焦りの色。


灼熱滅殺(ヒートエンド)!!」

 獄閻斎が『花殺め』を振って叫んだ。紅蓮の円筒が一瞬でその径を縮め、棲舞愚の巨体が劫火に包まれた。


「ぐおおお!」

 我が身を包む猛火に、棲舞愚が驚愕の咆哮。


「何度見ても、恐ろしい……!」

 電磁郎は、着流しの老人の背中を畏怖の念で見つめた。


 冥条獄閻斎、(ほむら)の秘術。

適当な点火装置(ファイアスターター)と空気さえあれば、いかなる場所であろうと灼熱の炎を起こし、相手を焼き尽くす火獄の技。

まさに老人の名乗った斎号そのもの。地獄の裁きを世に在らしめる紅蓮の劫火だった。


 だが……ばさり!

棲舞愚が、炎に包まれた蝙蝠状の翼を、大きく羽ばたかせた。

巨龍の体を包んでいた炎が、見る間に千切れて、熱風に乗って獄閻斎に襲いかかった。


「いかん!」

 獄閻斎、咄嗟に飛び退って炎をかわすも……!


「ぐはは!まったく片腹痛い、炎で俺と張ろうなど、一万年早いわ!」

 棲舞愚が、耳まで裂けた顎を開いて笑いながら、悠然と老人向かって迫ってくる。

なんということだ。獄閻斎の炎を払った龍の翼にも、赤金色の鱗にも、焦げ目ひとつ付いていない。


「うかつ!焔が効かぬとは!」

 さしもの老人も狼狽に顔を歪めた。


「いけない!ツイスター・F……」

 背後のエナ、槍を杖にし前に出て、必死で竜巻を繰ろうとするが、


「あ、あれ……」

 エナはガクリと校庭に膝をついた。切られた右肩からの出血と、二度まで放った竜巻の大技で、すでに彼女の体力は限界に達していた。


「そんな……」

 力の入らぬ自分の手足に、エナが無念の呟き。


「老いぼれ!わしの炎を防ぐとは、ちょっとばかり驚いたぞ!ならば……」

 棲舞愚が獄閻斎とエナの前に聳えて笑う。


「この手で引き裂くまでよ!」

 龍が、長い鉤爪を生やした右の前足を振り上げた。

絶体絶命。その時だ。


 ずぶり。


 校庭を引っ掻く棲舞愚の左の前足から、鈍い異音。

「ぐぅおおお!」

 巨龍が苦悶の声を上げて、左前足を見た。

どういうことだ。いつの間にか棲舞愚の前足を貫いているのは、校庭から生えてきた、銀色の刺。


「おお!」

 獄閻斎は目を見張った。刺はよく見れば、先端に鋭いかえしのついた(もり)

捕鯨などに用いられる巨大な銛が、まるでそこから生えてきたように、巨龍の足を地面から貫いている!


 ずぶり。

怪事は続いた。

棲舞愚が校庭に落とした己が影、その影の中から、更にもう一本の銛が飛び出して、鱗に覆われていない巨龍の腹に突き刺さった。


「ぎゃおお!」

 堪らず悶えうつ棲舞愚の巨体。凄まじい絶叫が校庭に響きわたった。

校庭から伸びているのは銛に繋がれた図太いロープ。巨龍は二本の銛で地面に繋がれた。


「電磁郎殿、今だ!」

 巨龍の影の中から、聞き覚えのある声。冥条家執事、天幻寺の声だ。


(おう)よ!天幻寺!」

 電磁郎の猛り声。


「あ……!」

 思わず背後を振り向いたエナ。つい先程までエナの傍らにいた生活指導主事の姿は、すでに消えていた。


 ゴロゴロゴロゴロ……


空を見る間に暗雲が覆い、雷鳴が響いた。


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