凶臨!邪神廟七部衆
学園上空を飛びまわる蝙蝠状の怪人。校門から侵入してきた蹄の異獣。
皆、少年の降下と同時に攻撃を止めて、怪人は巨岩の周囲を旋回し、異獣は触手を揺らしながら様子を窺うように立ちつくしている。
「大牙、何の用じゃ?ぬしらと談判など出来ぬ事、先の戦で身にしみているつもりだが?」
獄閻斎が厳しい眼で少年を睨むと、腰の脇差に手をかけた。
「まあまあ理事長、昔話をしたって詮ないことさ、それに僕は『代理』にすぎないんだ、『ルルイエ学園』の上主のね」
大牙と呼ばれた美少年が、相変わらずバカにしたような口調で老人にそう言った。
「『代理』だと?ふん、白々しい事を!で、何の話じゃ、まさかここまできて停戦だの和睦だの言いだすのではあるまいな?」
獄閻斎が鼻を鳴らして少年を問い詰める。
「理事長、今日は一つ、『提案』に来たんだ」
少年が、少し神妙な顔をしてそう言った。
「『先の戦』はまさに総力戦、僕達も君達もお互い被った傷が深すぎた、僕達だってやっと現世で動けるようになるのに、これだけ時間がかかってしまったしね……」
一人勝手にうなずく少年。
「ああ……忘れようとしても忘れられぬわ!」
獄閻斎の眼が、静かに憤怒で燃えている。
「そこでどうだろう理事長、今回の戦、『ゲーム』で決着をつけると言うのは?」
「『ゲーム』?」
訝る獄閻斎に、
「ああ、トーナメントさ」
少年は悪戯っぽく笑って、そう言った。
「両学園からそれぞれ七人、代表選手を選出しての勝ち抜き戦、最後の一人になるまで戦い抜いて、勝ち残ったチームの学園が、敗校の全権を頂戴する……」
勝ち抜き戦……。背後から少年と獄閻斎のやりとりを聞いていたエナは、ワナワナと武者震いが止まらなかった。
私の手で直接、こいつらを叩き潰す……コータくんを助ける!
「トーナメントだと……ふざけた事を……」
そう言いかけた獄閻斎に、
「理事長先生!やらせてください!」
エナが獄閻斎の前に進み出て、談判した。
「戦火が広がれば、さらに多くの生徒が犠牲になります、コータくんみたいに……」
必死の表情のエナ。
「私も、選手に加えてください!」
と、言うなりエナは、美貌の少年の方に向き直った。
「ガキンチョ!さっきはやってくれたな!言え、コータくんをどこにやった!」
怒りのエナに、
「コータ?ああ、さっきの子供か、大丈夫、彼は生きてるよ、一足早くうちに『転入』してもらったけどね」
そう言って少年はニタリと笑った。
少年の眼を見たエナは、全身が総毛立った。顔立ちこそあどけない少年だが、その眼からはいかなる感情も見てとれない。まるで死んだ魚の眼。
「理事長先生、お願いします!コータくんを助けたいんです!」
再び獄閻斎に懇願するエナに……
「仕方あるまい、他ならぬ『槍の炎浄院』の頼みとあらば……」
獄閻斎は渋々と言った顔で首肯すると、懐に手を遣り、筆ペンと巻物を取り出した。
「大牙……代表選手『七人』と言ったな……ならば、こちらも好都合」
広げた巻物に、筆ペンで何かをしたためて行く獄閻斎。
はらり。
見ろ。掲げられた巻物に、獄閻斎の記した聖痕十文字学園代表選手七人の名を。
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聖痕十文字学園
―滅魔劫刹陣七人組―
冥条獄閻斎
蟲愛づる琉詩葉
雷光剣電磁郎
昏き魔衣
炎浄院慧那
影包丁究兵衛
不思議相天幻寺
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「なるほど、それが君たちの選手か……」
少年もまた、ブレザーの懐から巻物を取り出すと、万年筆でスラスラと名を記し始めた。
はらり。
おお。少年が広げた巻物に記された、ルルイエ学園の代表選手七人の名は……
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ルルイエ学園
―邪神廟最凶七部衆―
嵐堂めいあ
絶界鬼大牙
月影の餓瑠
死郎
楼薙綺羅々
闇野川圧勝軒
棲舞愚
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「決まりだな、で、死合開始の時と場は?」
そう問う獄閻斎に、
「本日この場」
答えた少年、その刹那、
しゅらん!
瞬速で抜き放たれた獄閻斎の脇差が、少年の喉元めがけて飛んで行った。




