きざはしの鬼神
「き、『鬼神の番人』~?それに、『学園監視機構』って……?うちの学園を見張ってるわけ?」
せつなと名乗った少年の口から飛び出す怪しい言葉の数々に、ちょっと引き気味の琉詩葉。
「お祖父ちゃんにも聞いたけど、そもそも『聖痕十文字学園』って一体なんなの?なんで地下にこんな怪しいものが……?」
訝る琉詩葉に、
「そうか、まだ獄閻斎は話していないのか……いいだろう琉詩葉、ついて来い!」
せつなは踵を返して神殿の奥に向かって歩き始めた。
「ちょ、ちょっとー!」
慌てて琉詩葉、スクールバッグから顔を出したノコタンの灯すあかりを頼りに、少年の後を追う。
闇の中をどれくらい歩いただろうか。規則正しく屹立する黒大理石の柱が、気付けば目の前からその姿を消していた。
「これは……!」
琉詩葉は辺りを見渡した。
二人が辿りついたのは、立ち並ぶ無数の巨柱に円形に囲まれた、大広間だった。
「な、何あれ!」
琉詩葉は広間の中央を指差して少年に言った。
床から、何かが飛び出しているのだ。
近づくにつれて、それの正体が分かってきた。
「うう……!」
琉詩葉はあまりにも異様なそれの姿を見て、嫌悪感に掌で口を覆った。
広間の中央に生じた亀裂から屹り立っているのは、
二十階建てのビルほどもあるだろうか、黒々と輝く石造りの、巨大な、人間の腕だった。
丁度、肘から先の下腕が亀裂から飛び出して、まるで天を掴もうとするように、ぐわりとその掌を広げているのだ。
「せつな……君、なんなのさアレ……?」
少年の方を向いて震え声でそう訊く琉詩葉に、
「階の鬼神……古文書にはそう伝えられている」
せつなが話し始めた。
「『再創世神まりか』が顕現する以前、混沌の世界と一体となって『大崩壊』を止めようとした神……」
少年は巨腕を仰いだ。
「だが鬼神の願いは叶わず、奴は無念の内に世界と共に砕けた……『まりか』による世界再生の後も、鬼神の無念は晴れず、こうして世界の各地に食い込んだまま、眠り続けているのだ」
せつなが、琉詩葉の方を見た。
「荒ぶる鬼神の魂を鎮め、眠りを妨げぬよう各地に神殿が建立された、ここがその一つだ」
無数の石柱を見回す琉詩葉に、少年が言う。
「そして、地上より神殿を見守り、『再創世神』の願いを受け継いでこの不安定な世界を崩壊から防ぐ、それが『学園』の使命なのだ!琉詩葉、『聖痕十文字学園』も世界に数多ある鬼神を祀った聖地の一つ、お前の祖父、獄閻斎も『聖魔の円卓』のメンバーなのだ」
「が……学園とお祖父ちゃんにそんな秘密があったなんて!」
驚愕の琉詩葉に、
「だが……我ら『聖魔の円卓』に牙を剥く者がいる、鬼神を祀る学園を次々と狙い撃ち、取り込み、鬼神の眠りを妨げようとする者が……」
少年の顔が曇った。
「それが俺達の敵、『ルルイエ学園』だ」
せつなの黒瞳が厳しく光った。
「琉詩葉、お前達『冥条家』も、俺達『如月家』も、世界開闢の頃より女神に選ばれた特別の一族、最強の『秘術』で世界を崩壊から守り保護する『監視者』なのだ!」
少年が力強く琉詩葉に言った。
「じゃあ……裂花ちゃん、こないだあたしと戦ったあいつも……?」
眉を寄せる琉詩葉。彼女の首筋が、微かに疼いた。




