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ルシフェリック☆バースト!  作者: めらめら
第3章 浮上!邪神学園
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円卓のせつな

「『蠱毒房』の王にして甲虫達の上主(じょうしゅ)、プルートウよ!」

 眼帯の少年が、巨大なカブトムシを見上げて言った。


「冥条琉詩葉は試練を乗り越えた!闇蜘蛛の眷属を屠り去り、五蠱大将軍を討ち果たした!」

 少年はつかつかと甲虫の下まで歩いていくと、真っ赤な複眼を指差した。


「この女は蠱毒房の最難関、『地獄行(じごくぎょう)』を修めた!約定に従い百八の『蠱石』を授け、こいつを地上に還せ!」

 カブトムシの頭角から漏れる死光の奔流が少年の銀髪を揺らす。だが彼は臆せずそう言い放った。


「ソウハ……イカヌ……」

 琉詩葉の頭の中に、しわがれた声が響いた。

信じられない、琉詩葉はカブトムシを見た。『プルートウ』の声だ。あの甲虫は、人と『念話』するのだ!


「我ラヲ戒律デ縛レルノハ蠱毒房総長、地虫蛞蝓丸(じむしなめくじまる)ノミ!ダガ今ヤツハ、ココニオラヌ」

 『プルートウ』は少年を見下ろしてそう言った。


「約条ハ無効ダ!我ガ臣下ヲアレダケ殺サレテ、アノ小娘、コノママ地上ニ還セルカ!」

 甲虫の複眼が、怒りでチラチラと燃えている。


「奴ハココデ消炭ニシテクレル、我ヲ止メル事ハ適ワヌゾ!『円卓ノせつな』、オ前デアロウト!」

 甲虫は、輝く頭角の砲門を、少年に向けた。


「やばい!零距離!逃げてー!」

 石畳にへたり込んだまま少年の背中に琉詩葉が叫ぶ。あの間合いでブラスターをかまされたら、避けようがない。

だが少年に動じる様子は無かった。


「やれやれ、蛞蝓丸の手前、できれば穏便に片を付けたかったが、所詮は虫ケラか……」

 『プルートウ』から一歩も引かず、少年は唇の片端を歪めて続けた。

「『理非なき時は、鼓を鳴らし、攻めて可なり』!約定の『蠱石』、琉詩葉に渡さぬと言うのなら、『お前』を頂いて行くぞ!」

 そう言って少年は、眼前に突きつけられた甲虫の砲門に、己が掌底をぴたりとかざした。


「人ゴトキガ、笑ワセルナ、クラエ『冥府ノ鉄槌』!」

 『プルートウ』がそう相言うなり……


 びゅーーーーん!


 再び、フォトン・ブラスターの一撃。少年に突きつけられた頭角から必殺の熱線が放たれた。

金色の光の奔流に飲み込まれる少年の体。


「いやー!」

 琉詩葉の悲痛な叫び。だが……


 どういうことだ?

甲虫の放った熱線が甲虫自身の眼前で、まるで見えない傘に阻まれた放水器からの水射のように、四散して、飛び散っていく。

飛び散る光の中心に立っているのは、無傷そのものの少年。

彼のかざした掌底が、『プルートウ』の『冥府の鉄槌』を防ぎ、切り裂き、周囲に拡散させている!


「ナ……ナニ……!」

 『プルートウ』のしわがれた声に焦りの色。


「『冥府の鉄槌』……なかなかの威力だが、そんなものでこの俺の命の煌きを消すことはできんぞ!」

 鉄槌を片手で防いだ少年が、そう言ってもう片方の手を左目の眼帯に遣った。


 ぎらん。


 なんということだ。背後の琉詩葉には見えなかったが、眼帯を取って見開かれた少年の瞳の異様さよ。

甲虫の放ったフォトン・ブラスターの、更に何倍もの眩さの金色の光が、その瞳から溢れだしたのだ。


光の奔流が『プルートウ』の熱線を押し返し、封じ、甲虫自身の巨大な体をも包みこんでいく。


「バカナ!昆虫ノ王タル我ガ、人ゴトキニ!」

 『プルートウ』の断末魔が琉詩葉の頭に響きわたる。


「す、すげ~!」

 想像を絶する少年のパワーに唖然とする琉詩葉。


「貴様の命、異界の戦に捧げてもらう!使役せよ昆虫王……『円卓の獄門』!」

 少年はかざした掌底を握って叫んだ。


 ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。


 見ろ。光に包まれた巨大甲虫の体を。

砲門を頂いた頭角が、黒々とした甲殻が、みるみるうちに収縮し凝集していく。


 ころん。


ついには、巨大な『プルートウ』の体は朧に光る小さな塊になって、冷たい石畳に転がった。

『プルートウ』を封じた少年は、再び左眼を眼帯で覆った。

金色の奔流が急速に消えて行き、辺りは再び闇と静けさを取り戻した。

少年は石畳に転がる『プルートウ』を拾い上げた。


 それは、金色の燐光をまたたかす、カブトムシをあしらった小さなブローチだった。


「冥条琉詩葉、いつまでそんなところに座っている?来い、時間がないぞ!」

 少年は、琉詩葉の方を向いて、そう言った。


「あ……ありがとう!助けてくれたんだ」

 立ちあがった琉詩葉が、頬を赤らめて少年に礼を言う。


「勘違いするな、お前の為ではない!地上で始まった戦に、お前の力が必要なだけだ」

 少年が冷たく言い放つ。


「戦?君って一体……その制服も、どこの学校?」

 首をかしげる琉詩葉に、


「俺の名は『せつな』、呪われし鬼神の番人『如月(きさらぎ)家』の当主にして、学園監視機構『聖魔の円卓』の盟主だ」

 少年は、そう名乗った。


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