難易度MAX!修行にGO!
「『まりか』……様?」
琉詩葉は首をかしげた。どこかで聞いたような名前だったが、思い出せない。
「ふーん……『秘術』の事は分かったけど、それと冥条と、何の関係が?あと裂花ちゃん……あいつ、いったい何なのよ!」
まだ釈然としない琉詩葉。
「それに……この『祠』とか『冥府門』とか、いくら冥条の学校だからって、聖痕十文字学園って怪しい仕掛け、多すぎじゃね?」
琉詩葉は眉をひそめた。
「それも全て、故あってのこと、知りたいか?琉詩葉」
「し、知りたい」
獄閻斎にそう答える琉詩葉に……
「その答え!『十文字蠱毒房』の行を修めた勇者にのみ教えよう、行け琉詩葉!」
獄閻斎はそう叫ぶと、再びぱちりと指を鳴らした。
ぼおお。黒い祠の扉にかかった閂が炎と共に外れた。祠の扉が開いた。
「でええ!?」
琉詩葉の体勢が崩れた。右手が何かに引っ張られる。
何が起こった?彼女は戸惑って右手を見た。なんと、琉詩葉の掴んでいたアメジストの招蠱大冥杖が、紫色の光を放ちながら、祠に向かって引き寄せられていく。
「ちょおぉ!ちょぉ!強引すぎる~」
錫杖に引きづられて行く琉詩葉。手放そうとしても、大冥杖は彼女の手に吸いついて離れない。
「どべぇ~!」
琉詩葉は、錫杖と共に吸い込まれるように祠の扉の中に飛び込んだ。
ばたん。黒い祠の扉が閉まり、閂が扉を封じた。
「琉詩葉……生きて戻れよ!」
獄閻斎は扉に向かって厳しく言い放った。
「そんな~~~~」
扉の向こうの琉詩葉の声が、急速に遠ざかっていき、消えた。
「ご、獄閻斎様……!」
老人の影から立ち現われたのは、執事の天幻寺。
「いくら電磁郎を負かしたとはいえ、いきなり蠱毒房とは!琉詩葉様にはまだ早すぎる!」
彼は美しい貌を不安に曇らせて獄閻斎に抗議した。
「なになに、安心せい天幻寺!」
先程とは打って変わって鷹揚な顔をした老人。
「わしとて可愛い孫に、そこまで無理を強いたりはせん!」
懐から琉詩葉のブロマイドを取り出して、フニャけた顔の獄閻斎。
「見よ、天幻寺!」
獄閻斎は懐から巻物を取り出して天幻寺に広げて見せた。
「こ……これは!」
天幻寺は目を見張った。
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十文字蠱毒房 段位御定書
難易度:最低
どうしても最後まで行けない人向けです
敵の数:少なめ
獲得できるポイントも少なくなります
自動セーブ:オン
途中でリタイアしても最新のポイントから再開できます
オンライン連携:オン
他の修行者との協力修行やアイテム交換が可能になります
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「すでに先日、『蠱毒房』総長、『地虫蛞蝓丸』にもメールで話は通しておる!」
そう言って、天幻寺に胸を張る獄閻斎。
いかに琉詩葉がアホなれど、この設定ならばまず大事には及ぶまい。
老人はそう確信していた。
ほぉ……一瞬、肩の力が抜けた天幻寺だったが、
「お、お待ちを、獄閻斎様!」
何かに思い至った彼が、切迫した顔で立ちあがった。
「蛞蝓丸殿は、確か三日前からギックリ腰で自宅療養中!メールの返事は確認されたのですか!」
あ……!獄閻斎は蒼ざめた。
返信など、確認していない。
仕事やサークル活動でもありがちな事だが、送ったメールを相手が読んでくれているなどという確証は、どこにもない。
メール一通で相手に要件が伝わったなどという思い込みは、後でとんでもないトラブルを招く事になる。
学園の理事長である自分が一言通知しておけば、全てがトップダウンで動く。
永らく理事長の座に居座り続けていた獄閻斎の、まさに思い込み、まさに慢心であった。
「で、では今の段位設定は!?」
獄閻斎は祠に駆け寄ると、扉に添付された設定書に目を凝らした。
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十文字蠱毒房 段位御定書
難易度:地獄
人生に無常を感じている貴方に
敵の数:多め
佃煮にできるほどの敵、敵、敵
自動セーブ:オフ
倒れた場所が貴方の人生のゴールです
オンライン連携:オフ
他者との馴れ合いなど愚の骨頂。孤高な修業を楽しみましょう
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「い、いかん!琉詩葉~!」
獄閻斎は恐怖に目を見開くと、扉の閂を必死に外そうとした。
だが、獄閻斎も知っていた。いったん修行者を受け入れた『十文字蠱毒房』の入り口は、外側からも内側からも、開く事は不可能であることを。
「ぐうう、琉詩葉!頼む!生きて戻れ!」
獄閻斎は膝をついて、ただ孫の無事を祈った。




