十文字蠱毒房
「お待ちを獄閻斎様、この者、朝飯を目眩ましに!」
悔しさに歯噛みしながら電磁郎、鞭で縛られた体を震わせて獄閻斎に必死の言い訳。
「電磁郎、琉詩葉のあの姿を見て、まだそのような言い訳ができると?」
獄閻斎が厳しく教師に言い放つ。
……あ!琉詩葉を振り向いた電磁郎は驚愕に目を剥いた。
勝負を決した琉詩葉は、校庭にジベって悠然と朝飯を食べている。
先程電磁郎が両断したハニートーストをたいらげた琉詩葉。
彼女が次に懐より取り出して剥き始めたのは、おお、見るからにプルプルの半熟茹で卵。
「卵を懐に?あの激しい立ち合いで……それを割らずに……!」
電磁郎がガクリと膝をついた。
彼にトーストを断たせたのも敢えて。全て琉詩葉の計算づくだったのだ。
「ま、負けた……冥条琉詩葉、腕を上げたな……」
電磁郎は顔を伏せて、潔く負けを認めた。
「よし!合格じゃ琉詩葉!」
獄閻斎、琉詩葉に向かって、両腕で大きく丸の字。
「やったー!これで電ちゃんのしごきもおしまいだー!」
朝食を終えた琉詩葉。水筒からほうじ茶を飲みながら歓声をあげる。
「よくやった琉詩葉!今から次の『行』だ!」
獄閻斎がさらりと言う。
「ずずず……あぇ?次?」
琉詩葉、ほうじ茶をすすりながら怪訝な顔。
ぱちり。獄閻斎が指を鳴らした。
ごごごごごごご。
地響きと共に、琉詩葉の目の前で校庭が、割れた。
「ふ、ふお~!」
余りの怪事に息を飲む琉詩葉。
校庭を割って地下より立ち現われたのは、一戸建ての平屋程もある、黒塗りの巨大な祠だった。
「琉詩葉、今より『十文字蠱毒房』の行を始める!」
獄閻斎が厳めしく言った。
「冥条にて蠱術を修めんとする者が、いつか必ずくぐる行じゃ」
そう言って老人は祠の方を見た。
「あれが蠱毒房への入り口、あそこより立入り、房での試練を全て耐え抜いた者だけが初めて、『冥条流蠱術』の使い手を名乗れるのじゃ!」
彼は琉詩葉にアメジストの錫杖、『招蠱大冥杖』を返すと言った。
「持ち込むことの出来る武器は、この大冥杖のみ!さあ行け!琉詩葉!」
「ちょ……お祖父ちゃん、ちょまっ!ちょまっ!」
これまでよりも更に面倒な事になった。顔に縦線の琉詩葉。
「お祖父ちゃん、そもそも冥条の使命とか秘術って、一体何なの?これまで何となく流してきたけどさ?」
琉詩葉が獄閻斎に尋ねた。
「最近、変な事ばかり起こるしさ!あの妖怪女も消えちゃったし、これから何が起こるのさ?」
これまでの疑問を獄閻斎にぶつける琉詩葉。
「……よかろう琉詩葉、お前にも、もう話さねばならん、我ら冥条家の縁起と、『夜見の衆』の使命、そして『学園』の言い伝えの事も……」
獄閻斎が話し始めた。




