琉詩葉、特訓だ!
「それにしても、おっかしいよな~」
寝っ転がったままプレステで『バトルフィールド・デッド』をやりながら、琉詩葉は釈然としない顔をしていた。
先日のエナの言葉を思い出していたのだ。
『夕霞裂花』などという生徒はクラスにいないし、いたこともないと言うのだ。
「そんなアホな……だってコーちゃんだって、あんなに入れあげてたのに!」
驚いてつっかかる琉詩葉に……
「コータ君だって、そんな子知らないはずよ……大丈夫?頭でも打ったんじゃない?」
エナは本気で心配そうな顔をして、そう言ったのだ。
「そんなはずないんだけどな~、やっぱ、妖怪?取り憑かれた?」
琉詩葉は、目覚める前に見た、あの異様に生々しい夢を思い出して、顔が火照ってきた。
「いかんいかん!あーもー!溜まってんのかな~あたし」
彼女は首を振ると、気分を変えようと冷蔵庫から取り出したギガプリンにスプーンをつけた。
と、その時、
「琉詩葉、特訓じゃ~!」
『鳴滝の間』の襖をガラリと開けて立ち現われた獄閻斎。彼は琉詩葉を見るなり大声でそう言った。
「あえ……」
琉詩葉のスプーンが止まる。
悪夢のようなあの夜から一週間。
三日間の昏睡から目覚め、どうにか元気に動きまわれるようになった琉詩葉だ。
せっかく療養のために学校を休んで、プリン食べ食べごろごろプレステをしているのに、この祖父は一体何を言っているのだろう。
「いやでも、お祖父ちゃん……」
なんだか嫌な予感がして、琉詩葉は必死で言葉をつなぐ。
「まだ怪我とか治ってないし……ほれほれ、ぁあ痛つつつ!」
彼女は包帯に包まれた手足を差し出すと、これ見よがしに顔をしかめた。
「琉詩葉……」
獄閻斎は琉詩葉を睨みながら、ぱちりと指を鳴らした。
ぴん。
火花を散らして、包帯止めが弾けた。
何時の間にか布地に生じた切れ込みから、はらはら剥がれる琉詩葉の包帯。
剥き出しになった手足に、裂花の刻んだ傷はもうなかった。
「お前の回復力くらい、よく分かっておる!琉詩葉、お前もそろそろ裳着の歳、今一度冥条の業、みっちり鍛え直す必要がある、さあ立て!」
老人の眼がいつになく厳しい。
「どへ~まじ~?」
努力や我慢が死ぬほど嫌いな琉詩葉。テンションはヘロヘロだ。
「でも~学校の~勉強も~頑張らないと~いけないし~、もう~一週間~休んでるし~」
エナから貰った課題に手をつけてもいないのに。どうにかその場を逃れようと見苦しい言い訳だ。
「琉詩葉、問題ない。学校でも修行に励めるよう、こやつを専属トレーナーにつけた」
獄閻斎がニカリと笑う。
「だはは冥条、今日から俺がトレーナーだ!」
獄閻斎の背中から姿を現した一人の男。
「あ、あぅえ……」
琉詩葉の口があんぐり。プリンをすくったままのスプーンが、ぽとりと床に落ちた。
男は、轟龍寺電磁郎だった。




