めざめ
「あたしの部屋……あれ……さっきのは……」
目覚めた琉詩葉は一瞬、夢と現実の区別がつかずに、きょとんとしている。
障子から差し込む陽光が、今が昼日中だと琉詩葉に教える。
「琉詩葉様、やっとお目覚めになられましたか……」
布団の横にかしずいて彼女にそう言ったのは、黒の燕尾服を着こんでモノクルをかけた物腰やわらかな美青年。
急須から白湯を入れ、戸惑う琉詩葉にすすめるその一所作が、もう絵になるくらいに優美だった。
冥条家の執事、天幻寺夜斗だ。
「ナイちゃん……どしたの、久しぶり……」
目をパチクリさせる琉詩葉。
執事だというのに、いつも獄閻斎の命令であちこちを飛び回っていて、屋敷に居ることは少ない。
琉詩葉にも普段、彼が何をしているのか、いまいちわからないのだ。
「琉詩葉様、もう三日間お眠りになられていたのですよ、獄閻斎様が私を看病の為に呼ばれたのです、『護衛』も兼ねてですが」
夜斗が、相好を崩さずに穏やかな口調で答える。
「あ……ああ!!」
琉詩葉の目が見開かれた。あの夜の立ち合いの事をようやく思い出したのだ。
「裂花……!あんの妖怪女~、よくもあんな真似を!今度会ったらケツの毛まで抜いてヒーヒーゆわしたる!」
怒りの琉詩葉、罵詈雑言を並べてたてて布団から起き上がろうとするが……
すとん。
まだ手足に力が入らない。彼女は再び布団に尻もちをついた。
改めて見れば、手足は包帯でぐるぐる巻きだ。
「ほらほら琉詩葉様、まだ治りきっていないのですから、安静に、あと、そういう汚い言葉はお慎みを!」
困り顔の夜斗が続ける。
「ですが、今日はようやく御学友ともお話できますね……もう二回もお見舞いに来ていただいているのですよ」
夜斗は立ち上がって、障子を開けた。
「冥条さん……」
障子のむこうに立っていたのは、同じクラスの炎浄院エナだった。
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「はいこれ、三日分の配布物、あと課題!」
エナがぶっきらぼうに、布団の琉詩葉にノートのコピーやプリントを手渡した。
「ありがとうエナちゃん!お見舞い来てくれたんだって?もー、普段こわいくせに優しいとこあんじゃ~ん!」
普段のテンションが戻ってきた琉詩葉が笑う。
「べ、別に!元気だけが取り柄のあなたが病欠なんていうから、弱ってる姿を見ておこうと思ったの!」
相変わらず突っ慳貪のエナ。
「それより何なのよその格好……まさか電磁郎先生?」
いぶかるエナ。
「いや、関係ない、ちょっとね……それより、エナちゃん、あれから『あいつ』、学校に来た?」
「あいつ?」
「裂花ちゃんよ!夕霞裂花!あんにゃろ~!もう容赦せぬ!今度学校に来たら、白昼堂々この手で叩き潰してくれる!」
興奮して口調がバトルモードの琉詩葉。
「『夕霞裂花』……って、誰それ?」
エナが首をかしげた。
「へ……?」
琉詩葉の手からプリントの束がこぼれた。




