90話「騙し討ち! 必勝を騙る卑劣漢!!」
「カイト二連斬ッ!!」
ビルの上を足場にカイ斗は横薙ぎに二刀を振るうが、コハクのオーラ纏う真紅の槍で捌かれる。ギィン!
それでも懲りずにカイ斗は「うりゃうりゃ!」と二刀流で剣を振るっている。
背丈が高く全身を隠すマントで羽織っていてやりづらそうに感じるが、他の人造人間と違って普通の剣を二刀流で戦っているだけだ。
ギン! ギッギッギン! ガキィン!
コハクは稽古でもつけるように一本の槍だけで器用に捌いていた。
その上で、他の戦いの行方を様子見るなど余裕もあった。うどん魔人が現れた時は少し驚いたが、まだなんとかなる範疇と見て決着を急がなかった。
「舐められたものだカイ! 喰らえ! カイト竜巻斬りィィィッ!!!」
二つの剣を左右に突き出したまま、ぐるぐる回転を始めて全身が竜巻のように旋風を纏っていく。そしてその繰り出す連続攻撃でコハクを追い詰めていく。
ガギギギギギン!!!
後ろへ押し出されるようにコハクは槍で捌きつつ、下がっていく。
絶え間のない連続攻撃で反撃の暇も与えない勢いだ。カイ斗は「見たか!!」と自慢げに吠える。
「飽きました」キリッ!
それでもキメ顔でコハクは言い切り、カイ斗は「なっ?」と驚く。紅蓮染まる槍の口金の装飾が変化して先端が三叉に変形。
「九十九紅蓮・三閃槍!!!」
薙ぎ振るって三つの斬撃を飛ばし、カイ斗の二つの剣をいとも容易く砕いた。次いでマントが破け、吹っ飛ばされるカイ斗は後方のビルに背中を打ち付けた。ズダァン!
「がっ……カイ!」
得物を失い悶絶するカイ斗の目の前で、突き出された槍の切っ先が反射光で煌く。
「お遊びなら、ここまでですよ」キリッ!
「ううっ……!」
うろたえるカイ斗だったが、手の赤い刻印を灯らせてニヤリと笑む。
シュバッとなにか軌跡が煌めいた。コハクは咄嗟に後ろへ飛ぶ。辛うじて胸辺りの服が裂かれる。
カイ斗の破けたマントの下から、半身毛に覆われた獣人のような体が顕わになっていた。そして長い両腕の前腕の外側から曲刀のようにトゲが長く伸びている。
「チッ! これまでこのアームブレードでバッサリだったカイ……」
「不意打ちとはみっともないですね」キリッ!
「ほざけっカイ!!」
語尾は素なのか、とコハクは察する。
「カアアアイッ!!!」
吠えると同時に凄まじいオーラが全身を迸る。赤い刻印が呼応して、膨大なエネルギーが流れ込んできているようだ。
ゴゴゴゴ……、辺りが地響きしていく。
獣のような足でコハクへ瞬時に迫る。これまでと違う敏捷さにコハクは少し見開く。左右の前腕のアームブレードが挟み込んでくるが、かざされた槍で食い止められる。
ガッギィン!!
食い止める際に踏ん張るコハクの足が床にめり込み、そして遅れて足元のビルが裂かれていく。気付けば左右の隣接するビルまで裂かれ、ズズズ……とゆっくり崩れていく。
コハクはぐらつく床を蹴って、別のビルの上に着地する。
「……なるほど」
「つくづく狙い通りにいかせてくれないカイ! ムカちゅくカイ!!」
カイ斗はこれまでパワーを抑えて茶番を演じていたようだ。
「姑息ですね」キリッ!
「正々堂々と戦う正統派と装い、己の力を隠し敵を欺く! さすればいかな天才も猛者も油断し、その隙を突いて殺す! オカマサ殿の教えに従って狡猾に確実に勝ち星をあげていくカイ!
正に『必勝を呼ぶヒーロー漢 カイ斗』カイ!」
ヒュウウウ、二人の間を風が通り抜ける。しばしの間沈黙が続くがコハクは冷たく笑む。
「なるほど、確かに『必勝を騙る卑劣漢 カイ斗』ですね」キリッ!
「ぬっ!? て、訂正しろカァァイッ!!」
憤ったカイ斗が瞬足でコハクに襲いかかる。ブチギレるままにアームブレードを振るうが、コハクは涼しい顔で身を翻して避け、余裕でいなしてしまう。ザン、向こう側のビルが斜めに裂かれる。
「訂正しろカイ! 訂正しろカイ!! 訂正しろカイッ!!! 訂正しろカァァァァイッ!!!!」
執拗に二つのアームブレードを振るい、その余波で周囲のビルを次々と斬り崩していくがコハク自身は平然と凌ぎきっていく。それでも何かに取りつかれたようにカイ斗は「訂正しろカイ!」を連呼しながらアームブレードを滅茶苦茶に振り回す。
また不意を突こうと、膝蹴りと同時にそこからトゲを生やす。
「分かりやすいですね」キリッ!
三叉の槍を振るい、膝のトゲをバキンと砕く。宙を舞うトゲの切っ先から少々の液体が漏れる。
「があっ!」
カイ斗は激痛に呻き、後ろへ下がる。ふーふー、息を切らし顔に冷や汗がびっしょり濡れる。
両膝、両肘、両肩からジャキッとトゲを伸ばす。激情に任せ、馬鹿の一つ覚えのようにコハクへ飛びかかる。複数のトゲを乱雑に振るって幾重もの軌跡を描いていくが、コハクの分裂する槍でことごとく捌かれていく。
その度に周囲のビルが次々瓦解していく。
「カアアアアアアイッ!!」
業を煮やして額から長くて大きなツノを生やし、お辞儀するように振り下ろす。だがコハクは複数の槍で一点集中同時斬撃で斬り上げ、バキン、とツノを宙に飛ばす。くるくる弧を描いて床に転がるトゲ。愕然とするカイ斗。
「あ……ああっ!」
「これまで騙してきて、人の恨みを買ったツケがここに来ましたね」キリッ!
「ええい! だ、騙される方が悪いカイッ!!」
カイ斗は口から無数の細かい針を吹きかけるも、槍が横切ってあっさり弾いてしまう。
どんな手も通用せずカイ斗は「ぐぬ……」と悔しく呻く。
「そうそう、毒を分泌できる事もバレていますよ」キリッ!
「なにッ!? そ、そこまでカイッ!?」
カイ斗は両膝を床に付いて、愕然とした。
そう、トゲには毒を分泌する器官がある。一掠りでもすれば即効で効く。神経毒で動きを封じ込めて拷問したり、遅効性の毒でじわじわ苦しませて殺したり、いざという時に即死を招く強力な毒も生成できる。
これらも恐らく見抜かれているのだろう。
そこらじゅうに散らばったトゲの破片のいくつかは、切っ先から液体が零れていた。
「でもカイ斗君の素質は優秀です。一から鍛え直していけば、もっと強くなれますよ」キリッ!
握手を求めるようにコハクは柔らかい笑みを見せて手を差し出す。
呆然としていたカイ斗は「コハク殿……」とジワッと目を潤ませる。
これまで優しく諭してくれる人はいなかった。
師であるオカマサの厳しい修行を乗り越えてすら、褒めてくれる事はなかった。むしろ「もっとバーニングだ!」と厳しい修行を強制してくる。
これまで騙して騙される世界しか知らなかった。そんな殺伐した裏社会で自分は騙す側にいなければ生き残れないのだと信じてきたのだ。
「不意打ちが通じなければ普通は身を引いて隙を窺うののですが、あなたは最後まで戦い抜こうとしていました。それだけ戦士としても矜持が心に残っていたのでしょうね……。
よく戦いましたが、今は僕が一枚上手でした」キリッ!
目の前のコハクと言う男は違った。正々堂々と戦い抜いて、優しく相手の健闘を讃えてくれる。そんな初めて見る素晴らしい……馬鹿!
そう馬鹿で愚か者……ッ!!
「ありがとう!! 死ねカイッ!!!」ファハハハ!!
狂気の笑みでそう叫び、尖った爪を伸ばした両手で掴むように素早く襲い来る。が、コハクは「やっぱりね」と手を振り下ろす。
鋭く尖った巨大な槍が上空から高速で急降下してくるのが視界に入った。
カイ斗は「だ、騙したな……!」と血眼で見開く。だがコハクは「騙された方が悪いんでしょう?」と皮肉った。
カイ斗は全身からトゲを長く伸ばして迎え撃たんと必死になるが、巨大な槍はそれを跳ね除けるようにトゲをバキバキ砕いていく。それでもカイ斗は両腕で巨大な槍を抱き締めて受け止める。が、勢いは止まらない。絶句するカイ斗の胴に切っ先が刺さっていく。ズブァ……!
カイ斗は血眼で丸くし、口から血が「ごほっ」と溢れる。
バ……バカなっカイ! エッ……刻印の力をも超えッ…………!?
「グギャガアアアアアアアアアイッッ!!!!」
そのまま巨大な槍はカイ斗ごとビルを地面にまで粉砕していく。地響きを伴って衝撃波の噴火が高々と噴き上げた。
ズゴォォォン! 余波を前に、コハクはキメ顔のままと踵を返した。
「僕たちの世界には、もっと卑怯な侵略者がいます。だからあなた方の安っぽい騙し討ちなんてお見通しですよ」キリッ!
その時、遠くにいるうどん魔人が麺玉投げつけて大爆発させて、飛び火が更なる二次被害を呼び轟音が遅れて響き渡ってくる。地響きと共に吹き付けてくる風圧でコハクの髪が煽られた。
「何故に……うどんが…………?」
遠景でビル群がほとんど崩れて、いくつかクレーターが顕わになっていてコハクは溜め息をつく。
「まぁ、この世界の人間は好きになれないんですがね……」
敵母艦の上のモニターに映るナッセを見上げる。
ジダ公と戦っている最中で、傷つきながらも直向きに剣を振るう彼の姿にコハクは笑みを漏らす。
臆病なのに勇猛なナッセだけじゃない。サイコで無邪気なモリッカ。血気盛んだけど筋は通すマイシ。明るくて奔放なリョーコ。変態だけど頭脳明晰なノーヴェン。頼りになる漢気溢れるフクダリウス。生徒会長っぽいのから、ただの世話好きになったヤマミ。猪突猛進で恋突進中エレナちゃん。
……もしかしたら他にも好きになれる人間がいるのかもしれませんね。
彼らの事を考えていると、気分がすがすがしくなってくる。
コハクは嬉しそうに肩をふるふる震わせ、やがて我慢できず堰を切ってしまう。
「やったのですー!! みんなー!! 僕勝ったのです────っ!!」
まるで子供のように、満面の笑顔でワーイワーイ万歳で飛び跳ね続けた。
ヨネ校長はジト目で「あんさん、モニターに映ってまんがな」と頬に汗が伝う。
その側でスミレはにっこにこな笑顔のまま、携帯のカメラでコハクのリアクションを録画中……。
それを見てしまった控えの生徒は「悪魔や……」と呟いたとかなんとか。
あとがき雑談w
スミレ「これは永久保存版だね~~w」ニマニマw
コハク「ぐわああああ!! いっそ殺して!!」。゜(゜´◇`゜)゜。
ナッセ「悶えるべき黒歴史ッ!」(`・ω・´)キリッ!
『川端カイ斗(暗殺者)』
青い角が髪の毛のように多く生え、眉を隠すような位置でバンダナっぽく頭を輪状、そして鼻上を通るラインの紋様。肌は水色。腰には二本の刀が差してある。
マントを羽織っており、半身毛に覆われた獣人のような体を隠している。
長い両腕の前腕の外側から曲刀のようなトゲの先端から毒が噴出される。実は両膝、両肘、両肩、指からもトゲを出せる。
クールな態度だが本性は卑劣漢。語尾は「~カイ」と言う。
単純な戦闘力はそんなに強くない。
威力値17600
次話『ジダ公の激怒!! 熱血漢が嫌いらしい!?』





