41話「異世界は秘宝の宝庫!」
辺境の村リボナ。ナッセ達が最初にたどり着いた異世界の村。広大な草原の最中の小さな湖と川を付近に、数十軒の家が寄り添っている田舎だ。
わずか百人ほどの規模。畑や田んぼで自給自足が主な生活。のんびり余生を過ごすには最適な場所だ。
そんな辺境の村にも、冒険者ギルドは設立されていた。
建物は木造の二階建てのやや大きい屋敷。
大阪の梅田創作士センターほどではないにしろ、最低限の施設は揃っていた。ケガを全快する回復装置、討伐換金所、道具や武器防具売買、そして食堂。
「はい。登録は完了しました。以後よろしくお願いします」
カウンターにて、金髪エルフの職員はカードを返してくれた。それはいつもの創作士カード。やはり異世界のギルドでも共通として使用が可能なようだ。
一体どういう技術なんだろう? 気になるなぞ……。
「それから、この本の表紙に手を置いてください。ここでは必須のアイテムですよ」
「これは?」
エルフの職員から渡された本。表紙には『アイテムの書』とタイトルが書かれていて、その下に「200」と言う数字が書かれていた。
「これは精神世界由来の魔法の本です。主にゲットしたアイテムを収納したり、取り出したりできる便利な収納アイテムですよ」
そういえば、アクトがエキドナのフィギュアを取り出した本も、これと同じか。
表紙に手を置く。すると淡い光が灯る。表紙の下部分に自分の名前が刻まれていく。
「そのまま一分間じっとしてて下さいね。結合するためなので」
「結合?」
「はい。貴方の精神体と結合です。それにより、本を消したり召喚したり出来るようになりますよ。出し入れの意思さえあれば可能なので、掛け声は自由ですよ」
「あァ……、その設定忘れてたわ」
アクトはリュックから本を取り出して「もう、えぇわ」と言い、ボンと煙と共に消した。
「ちなみに出現有効範囲は一メートル未満です。有効範囲を越えますと自然と消えます。それと本や本の中のアイテムの出し入れはご本人しか出来ません。そうそう、邪な気持ちを持つと機能不全になるので、ご注意ください」
「邪な気持ちで?」
「はい。例えば万引きとか窃盗とか」
ああ、そっか。これだけ便利だと、悪用する人も出てくるもんな。その予防かぞ。
「それと第二者、第三者を介しての邪な気配を漂わせるアイテムや、生きている物の類も収納不可能なのであしからず」
もしかして密輸とかそういうの防ぐために!?
こちらの世界でも、旅人にプレゼントだと装って麻薬を隠したアイテムなどを密輸させる手口があるが、この方法なら未然に防ぐ事ができる。
上手く考えてくれてるなぞ。
「……では、この数字は?」
「ええ。これは収納しておける限界の数です。支給時は基本二〇〇個までですが、足りなくなってきたらギルドへいらっしゃってください。拡充出来ますよ」
他にも説明されたが、片手で持てるぐらいのアイテムでないと入れられない。この世界でギルドに登録した冒険者や創作士は全員持っている。中には袋だったり、カードだったりと、地域によって収納アイテムが異なっているらしい。
「ありがとうございます」
「いえ。貴方達の冒険にも祝福あらんことを……」
エルフの職員はペコリと会釈した。美人で丁寧だったなぞ……。
──ともかく、オレを最後にヤマミ、スミレ、リョーコ、エレナ、アクト揃って登録は済ませた。登録さえ済ませれば、ここの施設を自由に利用できるようになる。
「これで、いざという時に頼りにならァ……」
満面の笑顔のアクト。どうやら一緒に共にする気でいるようだ。
「でも、ありがとうね! ダーリン!」と笑顔でペコリのエレナ。
「あ、ああ。でもナッセでいいぞ」
カードの紛失を申請し、創作士カードを再発行してもらったのだ。ギルドのネットワークには本人のデータも登録されているため、再発行が可能だ。それで職員も転生者と知って驚かれた。
……本来は十五歳から登録が可能なのだが、転生者として目を瞑ってくれた。
なので、妙にこちらの腕に抱きついて甘えてきている。頭をすりすりしてきて、まるで猫みたいだ。くすぐったい。
「こら、やめなさい! 迷惑してるでしょ!」
「ぶー! やだ────!!」
ヤマミはイラっとしているようだ。目に見えて分かるなぞ……。
そういえばなんで懐いてくるんだろう?
学院入学から、そんな絡んでないのにどうしてだろう?
ビシバシ!
あ、ヤマミチョップが二度炸裂ッ! いつもの口喧嘩に……。さて、それはおいといて、換金所へ行くかぞ……。
「えええええ!!?」
ヤマミ達は目を丸くして驚愕した。……と言うのも、換金所で五十万以上の札束が出されたのだ。職員ですら面食らってる模様。
そ、そーいえばエンカウント率高めの洞窟で結構なモンスターやっつけてたし、特上位種リッチを倒したんだなぞ。こんな高額初めてだぞ。
「……あ、あたしも二十三万!? こんなの初めて~!」
リョーコも厚い札束に緊張して、手が震えている。
彼女も結構な数の上位種を倒してきた。ヤマミ達も三十万の札束を手にしている。
「中級特上位種リッチを倒す創作士なんて初めてですよ」職員はそう告げた。
「ち、中級?」
思わずオレは眉をひそめ、首を傾げて訝しがる。
「あれ? 説明されてませんでした? モンスターにはランクがあって、下級、中級、上級、超級、魔王級、大魔王級になっていて、それぞれに下位種、中位種、上位種、特上位種と細かくあるんですよ? あ、魔王級からは特上位種のみになります」
「ま、まだ……上が…………?」
信じられないぞ。あの手強いリッチですら中級特上位種……。
それよりももっと強いモンスターがごろごろいるのかぞ。そうか、だから魔王“級”なのか……。今まで勘違いしてた。
ってか上には上がいるとか、もう目眩するぞ……。
「そういえば鑑定士もそう言ってたわね……」ボソッとヤマミ。
上空を青空が広がり、白い雲がたゆたう。気持ちいい風が肌を撫でてくる。周囲の木々が瑞々しい緑だ。
ナッセ達は、ギルドの屋上のベランダでゆっくりしていた。広い景色が見渡せるいい場所だぞ。
「そういえば、あの塔……」
遠くの地平線から、薄っすら細々と伸びている直線上の影。それは遥か上空まで伸びていて、霞んで見えなくなっている。どこまで頂上なのか分からないぞ。
「俺も噂でしか聞いてねェがな……。異世界の古代文明に関係するもので、この星のコアから繋がってるっつー話だァ」
「え? ま、まさか……?」
「あァ、地中深くにまで及んでるってな。そんで頂上は宇宙にまで飛び出してるっつー話だァ……」
「何の為に?」
ヤマミは怪訝に食ってかかる。
「知らねェよ。ただ、アレが『星塔』って呼ばれてる。……直径はゆうに数十キロ。すげぇ太い塔だァ。行った事ないから信じられねェがな」
「…………『星塔』」
「聞くに、危険なモンスターや罠が多いが、秘宝もザックザクらしいな。それでなくとも、ここの星には未知の秘宝があっちこっちあるって話だァ」
職員の説明もあって、もっと上級のモンスターがゴロゴロいると知って怖いと思う反面、未知の秘宝と聞くとワクワクしてくる。
「秘宝って……?」
「よし! 待ってたァ……!」
ニッとアクトは得意げに本から何か太い羽ペンみたいなものを取り出した。白い羽は毛先が朱に染まっている。ペンの部分は瓶になっていて、中には淡く光る液体が入っている。
「なにこれ?」
「本当はナッセに飲ませたかったがな、生きているんならしょうがねェ……」
「え? これって……?」
「聞いて驚け! 死人すら、万全の状態で蘇る『女神ウィング』だァ!」
こ、こんな……チートなのあっていいのかぞ!?
「過去や未来を覗ける『時刻の水晶玉』、任意の年齢に若返る『生命の若葉』、自分の力が上がる『進化の秘薬』、宇宙の星々へ渡れる『星渡りの舟』、噂だけでもこんなにある。……おめぇが行きたいっつーんなら俺も付き合うぜ!」
「そ、それは嬉しいけど……」
学院が頭に浮かぶ。まだ入学してからそんなに経ってない。まだ学ぶべき事もある。
なにより、地球に何かが起きているのも気になるぞ。
星獣……。もしかしたら出てくるのかもしれない…………。
「…………悪いけど、地球でやる事やってからでなきゃ!」
オレの真っ直ぐな瞳に、アクトは笑む。
「おう! 俺も行くぜ! ……本当に滅んでないのか、半信半疑だしな」
「あたしも行くー!!」
エレナも拳を振り上げた。彼女も元々は地球人だ。
ヤマミは愛おしく見えるナッセを見て、決意の眼差しを見せる。
自分を縛る一族。血なまぐさい風習としたきり。そして忌まわしき『刻印』……。自分にのしかかる問題は山積みだ。
その重圧からか、頬を汗が伝う。握る手に力がこもる。
「まずは私が“自由”にならなきゃ……」ポツリと呟いた。
そろそろ帰ろうと出入り口の扉へ向かうと、その隙間から閃光が溢れた。
ドガァア!!
ギルドの扉と周辺の壁もろともが豪快に吹き飛び、木片が飛び散る。ズズズズ、床が揺れる。驚き戸惑う職員と冒険者達。思わず振り向くヤマミ達。そして場を制圧するほどの威圧が溢れ出てくる。
「なに……、なんなんだ??」
ビリビリ……、ひしめく威圧で誰もが汗を垂らし、畏怖させられる。
来たか……。
ゾクゾクと背中を走る。この威圧感は知っている。まさか、ここまで追ってこれるなんて思ってもいなかった。
だけど、何故かな? なんだか頼もしそうとすら思えるぞ。
きっとオレ、笑ってる!
「剣士ナッセ! 約束通り、てめぇは潰すし!!」
勝気溢れる自信満々の笑み。赤髪のセミロング、睨めつけるようなツリ目。剣を肩に乗せてどしどし歩んでくる。同じ同級生の龍史マイシだ。
誰もが震え上がるほどの、龍を象る巨大なオーラが轟々と燃え盛っていた。
ヤマミもリョーコも戦慄で震える。スミレですら表情が強張っている。初めて面を向き合って会うと、また違った恐ろしさが分かる。
「ああ、待たせてすまん! ……だが、あんたとも戦って、オレが勝つ!!」
これはオレが乗り越えなきゃいけない強敵!
だからこそ、これまで鍛えてきた全てをぶつけて……、未来を勝ち取るんだ!
地球でやる事ぜーんぶ終えて、この広い異世界へまた来てワクワクするような冒険をして、いずれは師匠のような偉大な創作士になるんだ!!
そんなオレの自信満々な笑みと真っ直ぐな瞳に、マイシは憮然とする。
あとがき雑談w
マイシ「ふっふっふ! 落ちこぼれが『洞窟』で逃げようたってそうはいかないし」
ナッセ「じゃあ、あの交差点のあるフロアも通った?」
マイシ「…………信じられるかし! あたしは宇宙一なんだしー!」(錯乱)
ナッセ「???」
マイシも実はナッセの通った道をそのまま通ったので、例の悪夢の交差点にも踏み入れていた。
邪悪なフォースが這い出る通路は実は落下されるようになっている。
マイシ「ち……! ナッセはここを通ったのかし!?」
足が震えているのが自分でも分かる。
そしてナッセの足跡が妙な軌道を描いているのが見えていた。
マイシ「途中で直角になってる……落ちた……?」
全力のオーラを噴き出して、翼を象って勢いのままに交差点を強引に通り過ぎた。
途中で重力の変化を感じて、自分の推理が正しかった事を察した。
だが、自分がビビっている事は紛れもない事実。
マイシ「く……くそったれし……!」(涙目)
で、憂さ晴らしにナッセにいきなり戦闘しようと突っ込んできた経緯が……。
ナッセ「それはちょっと迷惑だなぞ」
ヤマミ「とばっちりね……」
次話『成長したナッセはマイシと切迫している!?』





