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39話「最後の地球人? 謎を呼ぶ男!」

 馬の形をした岩のゴーレムが二頭、馬車を引き連れて土煙を起こしながら、広大な草原を走る獣道を駆け抜けていた。


 草原は高低差が(ゆる)やかで地平線が何段か見える。そして(となり)の風景は高い山脈が横切っていて、逆の方は雲海の海。雲海にはいくつか浮遊大陸が(そび)える。

 ガタガタ、馬車が揺れながら小太りの商人は岩の馬に(くく)りつけた手綱を握って運転していた。


「へっ! 石の馬で引く馬車か! こういう(おもむ)きも悪かねェなァ」

 馬車の中で、ホームレスの男はくつろぐように仰向けの形で寝転がっていた。


「このご時世、反転空間が多発するんで、馬よりゴーレムならと商人(マーチャント)達の間では流行ってますよ」

「反転空間? ……例の戦闘空間だろ? そりゃエンカウントみてェだなァ……」

「エンカウント?」

「あァ、気にすんな。俺のいた世界のゲームのシステムに似てると思っただけよ」

「……不思議な方ですね。名前を聞かしてもらっていいでしょうか?」


「アン? ……アクト。フルネームは紗瑠(シャル)アクト。地球人の生き残りは俺だけかもしんねェがな」


 商人は「へぇ」と頷く。

 ついさっき、広場で拾ったホームレスの男は異世界からやってきたと言う。根が悪い人じゃないので、行きたい所までは乗せてやりたいと思った。

 なぜだか不思議な雰囲気を(かも)し出す男。だから放っておけなかった。


 馬車で広大な草原を駆け抜けながら、二人は他愛のない会話を繰り返していた。


「その、大変でしたね。なにやらでっかい化け物がチキュージンを滅ぼしたとか、魔王級なんですかね」

「あァ……。俺の親友もヤツに殺されちまったようなモンだ。そいつだけが心残りだ」

「親友というのは?」


城路(ジョウジ)ナッセ。唯一無二の親友よ!」


 ニッと自嘲するアクト。


 かけがえのない親友。その姿を片時も忘れた事はなかった。

 半分黒髪と銀髪が入り混じった髪の毛の青年。気弱そうな優男だが、時々強い所を見せる事がある。一緒に『創作士(クリエイター)』として戦った事があった。

 俺は剣を、親友は『衛星(サテライト)』を操り強力な魔法で撃つ。息のあったコンビだった。あれほどの相棒は他にいない。


 共に意気投合し、自分の夢を目指す仲。老後まで長い付き合いになると思っていた。だが、それは突如として破られる。


星獣(せいじゅう)


 突如と空を覆うような巨大な化け物が現れた。そいつが殴れば大地が吹き飛び、吐き出す怪光線で山脈ごと吹き飛ばす。巨体に見合わず超高速で大陸間を移動する。どんな兵器も軍隊も歯が立たなかった。多くの国が消し飛んだ。

 無数の龍を尻尾にギラギラする双眸が恐ろしく睨んでくる。悪夢だ。忘れられようがない。

 まるで人類を滅ぼすほどの『絶望』の塊だった。


 創作士(クリエイター)が俺達だけになった時、ナッセは「お前だけでも生きてくれぞ!」と笑顔を作った。俺を光で包み遠ざけてくる。笑んでいた口から血が一筋垂れる。俺から遠のいていくナッセは化け物へと向き直る。そしてなんか白い羽みたいなものを展開すると弓に形を変え、何かを呟いた。


「……! ……『運……』!!」


 自ら莫大(ばくだい)な力を発揮するように、凄まじい光を放って『鍵』みてぇなものを生み出した。


 ドッ!


 そいつは一条(いちじょう)の光による一撃で化け物を射抜き、倒した。遠目で力尽きて仰向けに倒れようとするのが、最後の親友の姿だった。

「ナッセェェェェェェエ!!!!!」

 後悔を強く胸に刻み、荒廃した地球で独り大泣きした。もう自分以外の人間はいない。絶望に心が沈み、そしてのうのうと洞窟(ダンジョン)を転がり、今まで死に損なった。


 あの『鍵』が何だったのか分からねェ……。だが命を代償に払う事だけは確かだァ。

 あン時、ナッセの手を引っ張って一緒に逃れたかった。憎まれてもいい、殴られてもいい、そいつだけは俺と共に生き延びて欲しかった。


「後悔しかねェよ……。親友を見捨てたようなモンでさァ」

「…………ダンナさんも色々ありましたな」

「あァ」


 もし時間を逆行できる力があれば、そいつ殴って気絶させてでも連れていって生き延びたい。今独りで生きているのはただただ苦痛なだけでしかねェ……。

 何度、自殺を考えた事もあった。だが、それは逃してくれた親友の想いを踏みにじるような気がして、結局できなかった。とんでもねェ課題押し付けられたもんだ。いっそさっさと寿命尽きて、天国でアイツと笑い合いたいモンだ……。


「いいんですか? 辺境の村で?」

「いいさ。俺ァ、そこでゆっくり余生を過ごすさ。これならアイツも文句ねェだろ」


 異世界で、行く宛も目標もなくちょいちょい転がってたのも、もう飽きた。だから、目立たないような小さな村で暮らす事にした。これでいいんだ。これで……。



 だが、村で彼は信じられない光景を目にして見開いた。身が歓喜に打ち震える。とてつもないほどの希望の光が、自分の暗く沈んだ心を満たしていく。


「……おお……お! ま、間違いねェ!!」




 異世界の村。ほのぼのとした田舎で、いくつかの家が寄り添って平和を謳歌していた。


「ギルドへ行きたいって、今までどうだったのよ?」

「だって、こんな幼いんじゃ誰も真に受けてくれなかったもん! だからね、一緒に来て欲しかったんだよ! ぶー!」

 不機嫌そうに頬を膨らますエレナ。


 彼女はナッセ、ヤマミ、スミレ、リョーコと一緒にギルドへ向かおうと道を通っていた。その道中で、馬車がいくつか止まる広場が開けていた。

 駐車場のように、広い地面に少ないものの馬車が止められていた。そして奥には駅のように横長な建物があって、(まば)らと人が行き交っていた。


「道の駅ね」と片目つむってエレナ。


「……なんだか、現代と混ざって奇妙だなぞ」

「うん、そう思う」

 リョーコと息が合うようにジト目でゲンナリしていく。



 すると、何か風を切るような音がした。それを察し「離れろ!」と(うなが)す。それぞれ一歩後に飛ぶ。


 ドズン!!


 何者かが一瞬の内に駆けてきた。地面にくっきり足跡を刻みつけ、そいつは立ち上がった。背が高く大柄な男。黒髪のパンチパーマで、垂れ目。腰には立派な刀をぶら下げている。


「なに? このデカブツぅ!」

 さり気なくオレの腰に抱きついて後ろに隠れるエレナ。



「死ぬほど、会いたかったぜ…………!」ニッと歓喜に笑む。


 警戒を解かず、固まっているナッセ達。

「……知り合い?」

「いや、異世界に知り合いなんて……」

 ヤマミに聞かれ、首を振る。異世界の人間に知り合いが居るはずがない。


「おいおい! てめェ、俺の事忘れちまったのかよォ!? 城路(ジョウジ)ナッセェ!!」


 知っている!? オレの名前を!? ……しかもフルネームで?


「なぜ、オレを知っているんだぞ?」

「知ってるも何も、おめェと親友だからよ! ってか全部銀髪でちょい幼いが、忘れられようがねェ顔だ! 俺はアクト! 紗瑠(シャル)アクトだ!!」

「あ、アクト……?」


「あなたも異世界転生してきた人ね!」

「あン?」

 ヤマミヘ視線を向ける。


「かのヤマミってェのはアンタの事かァ……。写真で見るより美人じゃねェか」

 なんか「スミに置けねェな」って感じでかんらかんら笑ってくる。


 リョーコが耳打ちしてくる。

「ね、ねぇ? 前に会った事があるとか、小さい頃に亡くなった知人とか?」

「いや、全然見覚えないぞ……。あの肌黒い大男なんて」

 なんか胸のつっかえがあるような気がする。エレナの転生といい、師匠の意味深な言葉といい、何か気になる……。


「っち! どうやら頭でも打っちまったかァ? まァいい! 生きてくれてるだけでも俺にとっちゃ僥倖(ぎょうこう)だァ……」

 ワハハハハ、と左右に腕を広げて高らかに笑っていた。嬉しそうなのが分かる笑い方だ。


「なんなのアイツ? 気軽にダーリンに話しかけて欲しくないわねー!」

 ナッセの後ろで、エレナはブスッとする。


「ナッセちゃん! ほんと~に知らないの?」

 スミレが聞く。

「全然! 生まれた時から知らないぞ……」

「こういうケースの異世界転生もありうるのかしら……?」

 まだ訳がわからないオレとヤマミ。

 一体何が、と考えを張り巡らせる。だが記憶にないから思い当たるものは何もない。


 ──これも先に『結果』が生まれて、『過程』が組み込まれた?

 元々オレには親友はいなかったが、何らかの原因で『親友がいた』事になって歴史に組み込まれたなら、覚えていなくて当たり前である。確証はないが……。



「ここで嬉しい再会を果たしたんだ。いっちょ手合わせ願おうかい?」

 挑発的な不敵な視線を感じる。そこに悪意も敵意もない。あるのは純粋に力比べしたいと、すがすがしい気持ちだけだ。


「……まだ謎が多いが、その申し出は受けるぞ!」

「そうこなくっちゃな!」

 嬉しそうに腰から刀を引き抜く。すらりと曲線を描く刀身。まるで日本刀だ。そこまで混ざっているのだろうか?

 そして、この威圧……。強い! 肌にビリビリと来る…………!


 右の手の甲から『刻印(エンチャント)』を発動させ、青白く灯った。そして手にとった杖から光の剣を伸ばした。



「ん? 今は剣を使うのかァ?」

「……お前はオレを知ってるようだが、同姓同名の人違いではないのかぞ?」

「見りゃア分かる……。やはりその口調、その目、あン時と変わらねェ…………」


 この言い方。まるでオレもエレナと同じく転生者……? だがなぜ、オレの記憶にない?


「待ちなさい!! ここで騒ぎ起こす気?」

 ヤマミの待ったがかかる。面倒だと言わんばかりに、アクトは「っち」と舌打ちする。変わった舌打ちだなぞ……。


 すると商人がやってきた。小太りでふくよかな優しそうな人相だ。

「アクト君。はやる気持ちは分かるが、ここでは迷惑になる。やるなら外がいいではないかね?」

「おお! 興奮してて、すまねェな……」

 刀を肩に乗せ、戦意を収めた。



 場所を改めて、ここは村の外の大草原。風が吹き、波打つように草原が揺れる。周囲に木々が生えている。そこでナッセとアクトが対峙(たいじ)する。

 それを観戦するように商人、ヤマミ達が離れて見ている。所々野次馬(やじうま)が集まってきている。衛兵も村を守るために見張っている。エレナは「ボコしちゃえー!」と拳を振り上げている。


「いいぜ? いつでも来な!!」


 アクトは不敵に笑う。どこか嬉しそうだ。

あとがき雑談w


ヤマミ「またまた魔法の勉強よ」(舞い上がっているw)

ナッセ「今度はなになに?」(わくわくw)


『風魔法(ヒュザ系)』

 ヒュザ、ヒュザーラ、ヒュザラジンの基本三段階。


 元々は『風牙ふうが』『風牙羅ふうがら』『風牙修羅刃ふうがしゅらじん』が旧名称。

 風の刃を放って敵を切り裂く魔法。これは元々は帆船はんせんの航海のために編み出された魔法だった。後にバイキングや海賊、商船団などが武器に転用していった。

 応用して砲や銃弾の軌跡を逸らす事もできるため、ほぼ全員が使えたらしい。

 文明が進んで頑丈な船になってからすたれていった。


『地魔法(ガイア系)』

 ガイア、アースガイア、グランドガイアの基本三段階。


 元々は『岩砲がんほう』『大岩砲だいがんほう』『大地震岩砲だいじしんがんほう』が旧名称。

 最初は畑を耕すために開発された。後に開拓用に改良され、戦争では地震で敵陣を崩し壊滅させる程に至った。

 グランドガイアに至っては取得が困難な為、使い手がほとんどいないレア魔法。


ナッセ「古風な呼び方の方がカッコいい気もしてきたw」

ヤマミ「今時の若者は魔法ではなくスキルと勘違いするらしいね……」

ナッセ「それなーw」



 次話『気さくな大男!? かつての親友だったらしいが……?』

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