163話「ベルトの男、オータムの真なる力!」
リョーコとアクトと一緒に要塞へ着く頃、エントランス前で二人がいた。
ただならぬ雰囲気に、オレたちは思わず走っていた足を止めた。
「なんなの? あの二人?」
「待てァ……」
拘束具のように多くのベルトを巻き付かせているコートの青年。そして不敵な笑みで対峙するオカマサ。
どうやらタネ坊からオカマサに変身する事もできるようだ。
ベルトの男はピクリと眉を跳ねる。
「おう、帰ってきたんやな」
振り向けば、邪魔にならないように離れて見守っていたドラゴリラがいた。キンタから変身できるようだ。
ふと気になった……。
オカマサからは洗練された歴戦の雰囲気が滲み出ている。
何を代償にしたのか知らないが、これまでのようにレベルの上限が低くて弱かったのとは違う。
こいつマジで強い……!
だがそれよりも、目の前のベルトの男と因縁があるのか!?
「久しぶりだな。『七皇刃』オータム!」
「フッ! 来たな……」
オカマサとオータム。かつての宿敵との再会で不敵に笑む……ってトコか。
「ナッセ!」
何故かオータムがこちらに?
オカマサは「ん、そっち?」と戸惑いながら、こっちとオータムを交互に見やる。
「え? オレぇ?」
自分を指差して驚く。それにオータムは頷く。
「……あの魔皇帝ヘインが認めたほどの男だ。貴様、まだ力を隠しているな?」
「いや、あれで全力だったぞ?」
「フッ! しらばっくれるな」
でもまさか、オレの妖精王化まで見抜いていたとは……?
ヘインですら……、いやきっと気付いているかもしれない。こいつら鋭い!
「しゃあない。バレたかぞ……!」
へへ、と笑ってみせる。
「……城路くん。まだ隠していたのかい?」
「ああ。そういや見せてねーんだっけ?」
するとリョーコが腰に手を当てて「ノーヴェンが言ったでしょ? ヤミザキと対決するまでは出すなーって」とクギを刺してくる。
アクトも「あァ……、リョーコの言う通りだァ」と、オレの肩に手を置く。
オータムはオレの横を通り過ぎ、数歩進んで半顔で振り向く。
「この戦争と大災厄が片付いたのち、俺と勝負しろ!」
「え? オレと?」
「お、おい! 待ってくれないかな!」
慌ててオカマサは呼び止める。
「勝負なら、俺とも……」
「小学校の頃はもういい。あんな『ぼくのかんがえたさいきょうのバトル』など今更どうでもいい」
「も、もうしわけない。オータムくんがマイクロブラックホール出した演技に昼休みが終わるからと中断して済まない!」
「せや! ワイたちも心残りだったんや」
「お前らの事情など知らん!」プイ!
……そんな過去が? ってかどうでもいい因縁だなぞ。
必死に引き止めるオカマサとドラゴリラがちょっと可哀想になってきた。
ガックリしてる二人には申し訳ないが、オータムはオレが気になってるようだなぞ。
「とにかく俺はお前とも戦いたい。満足させてくれるか……?」
「ああ。無事に生き残れたらな! オータム!」
「貴様こそ、な」
オータムはフッと笑い、そのまま走り去っていった。
それを見送る。
「同じ魔法少女として、ナッセとどっちがキラキラしているか……楽しみだ」
微かに聞こえたオータムの嬉しそうな呟き。
「ん……? 聞き間違い??」
前線で軍人や創作士が必死に、刻印獣の進撃を食い止めていた。
数度ミサイルを飛ばし大爆発で打ち砕くも後続が湧いてくる。魔法や矢など弾幕で張っているが如何せん押され気味だ。
刻印獣が戦車へ飛びかかりザクザクと装甲を切り裂いて爆炎が上がっていく。
アサルトライフルで懸命に応戦するも、痛覚もない刻印獣はズンズン歩みを止めない。
「くそ! 生身の人間と違って手応えがないぞ!」
「うわあああ!! また戦車がぁ!」
ドカァン! 大破した戦車が爆発を吹き黒煙を上げていく。
「空からも弾が……!!」
コウモリ型の刻印獣が丸い爆弾を落としてきて続々と爆発が遺跡を砕いていく。
巻き込まれた軍人や創作士などが「ぐわああ!」「ぎゃあッ!」と倒れていく。
「医療班早くしてくれ!! また負傷者が!!」
「分かった!! ただちに!」
「その間に我々が食い止める!!」
ヒーローとヴィランが飛びかかって、刻印獣の進軍を食い止める。
そんな激戦を目の辺りにしてオータムは無表情ながらも、心に何かが湧いてくるのを感じた。
いつもヘインの側で、出来レースのように冷酷な任務をしてきた。
自分を満たしてくれるものがなくて陰鬱だった……。
とある日、勝手な言動が目立っていたトビーを見かねて、ヘインの命により抹殺を敢行しようとした時、逆に恐ろしいものを見せられて殺された。
今まで格下と思っていたヤツが実はとてつもなく強く、雲泥の差を思い知らされた……。
弱者に価値がないと、これまで冷たく見下していた。
トビーからすれば、俺もヤツにとって価値がない弱者と見ていたのだろうか?
今の俺は並行世界の全ての俺を統合されてパワーアップした。
その時、別の俺を知って、カルチャーショックを受けた。
俺を満たしてくれるものがそこにあった!
刻印獣の群れが一斉に射撃を放ち、慌てるヒーローや創作士。しかし天から降ってきた大剣が地面に突き刺さり、見えない障壁に遮られた射撃は爆発を連鎖していく。
すぐさまオータムは大剣の側に、地面をめり込ませるほど降り立つ。ドン!
「そうはさせない……! 弱き者をいたぶる巨悪は俺が払拭してみせる!!」
オータム自身もこのセリフには違和感があった。
これまで冷徹に敵を始末してきた自分が、弱者の味方になるなど吐き気を催す事柄。死んでも言わんセリフだ。
だが、何故か今の自分は「それでもいい」と自身を認めている。
どんな俺でも俺は俺だ。
地面に突き刺さった大剣を抜いて、天に向かって掲げた。
「見よ! 俺の『最強闘魂破壊王』を!」
するとキラキラ光飛礫が舞い、それはオータムに降り注ぐ。
なんと全身を巻きつけていたベルトが破けて全裸の身が虹色になり、胴体にレオタードがパシュンと具現化。更に手にはグローブが、足にはブーツがパシュンと具現化。そしてオータムのキラッ☆キラッ☆とした明るい表情の片頬に紋様を染め。髪の毛が蛍光色のような青色に切り替わる。そして耳上辺りに青い花が添えられた。
地味だった大剣もオータムの手の下でグルグル周り、なんと弾ける閃光と共にオモチャのような装飾が施されたヒーローの剣に変換された。
そして直立したオータムは大剣を肩に乗せ、ピースサインの手を瞳に添えて、クール風に笑む。
「プリキューメン・オータム参上ッ!!」
パァーン! 光の波紋を散らしてキラキラが飛び散った。
誰もがポカンと呆然とする。そして刻印獣も汗を垂らして突っ立っている。
「だから嫌だったんじゃ! 並行世界の記憶を統合するなぞッ!!」
「……言いたい事は分かる。だが、まさか魔法少女に憧れてソッチ系を極めて来たオータムが存在するとは!」
そんなヘインとアメリカジェネラルの掛け合いを尻目に、目を丸くして驚く。
まさか冷酷そうなオータムが魔法少女になるとは……。やはり……聞き間違いじゃなかったか……。
こんな奴と対戦を約束しちゃったよ…………。
「ナッセ……」
「あ、ヤマミ! お、おかえり……」
「うん。おかえり」
気付けば黒マフラーのヤマミがいた。後からエレナとスミレ。
「魔法少女オータムって~? ぎゃはははは~!!」
見るなり笑い転げるエレナ。
ヤマミを見ると目を逸らしていた。恥ずかしくてたまらず口を結んで震えていた。
「ま、まぁ、気にすんな」
「私は特化モードよ……」
「え? 特化……?」
「私のは特化モードだからッ!」
キッと涙目で訴えてくる剣幕に「わ、分かった」と返すしかなかった。
そういやヤマミもいい年だもんなー。
「いっくよー!! MAXソード・ウェーブッ!!」
オータムは軽快に剣を振り、ビシッと構えると凄まじいエーテルを全身から放出。
それは大地を揺るがし、天を突くほど光柱に立ち昇った。ドドドド!!
横薙ぎと大剣を振るい抜くと、衝撃波の津波が扇状に吹き荒れて百体以上の刻印獣を粉々に吹き飛ばしていく。
尚も疾走る衝撃波の津波は後続の刻印獣を木っ端微塵に流していく。
「もう二撃いっくよー! MAXソード・スリーウェイ!!」
今度は大剣をブンブン振り続けて、三方向に三日月の刃を高速連射。凄まじい三日月の嵐が地盤ごと刻印獣を切り刻んでメッタメタに砕いていく。
まるでシューティングゲームさながらの散弾で刻印獣を撃滅していく。
更にオータムはエーテルを身に包んでバシュッと空を駆けながら、ガンガン散弾をばら撒いた。
さっきまで押され気味と苦戦していたヒーローや創作士たちはポカンと突っ立っている。
「あいつ一人でいいんじゃないかな……」
ヘインは震えながら拳に握り締める。
「めっちゃ恥ずかしいんじゃが認めざるを得ん! なんせ並行世界全てのオータムの中で最強じゃからな!」
オータムは晴れ晴れとした顔で目の前の敵軍を撃滅しながら、これが本当の俺だと確信した。
ガキの頃、テレビで魔法少女が健気に戦う姿にドキドキみとれて自分も目指そうと努力をし続けてきた。その結果、剣士ながらも魔法少女へと変身できるスキルを得た。
弱者を守るために巨悪に立ち向かい、そして同時に皆に勇気と熱血と夢を振りまく史上最高の変身形態!
それこそが『魔☆法☆少☆女』ッッ!!
他の並行世界では残酷で冷徹な自分が多かったが、それさえ矮小に思うくらい今の魔法少女としての俺が最高だ!
自分が少女じゃないのが残念だったが、それでも俺が目指し叶えた夢!
そしてどんな巨悪にも負けない健気な心が己の力を高める!
ひたむきに行け! 俺!
せいいっぱい走れ! 俺ぇ!
どこまでも駆け抜けろ!! 俺ぇぇぇ!!
「これが世界の巨悪を払拭するプリキューメン・オータムだぁーッ!!!」
空を駆けながら、瞳にピースサインを添えてはっちゃけた。
憧れた純真な『魔法少女』になる事で、彼は心を満たされたのだ……。
あとがき雑談w
冷酷そうなオータムは剣を掲げ、光に包まれると全身のベルトがちぎれ、次々と魔法少女っぽいレオタード、グローブ、ブーツを具現化させて装着していく。
先程とは打って変わって、明るく軽快な性格でポーズを決める。
オータム「プリキューメン・オータム見参ッ! この世の巨悪を払拭すべき存在ッ!」
ナッセ「……それがオータムの性癖ぞ?」
ヘイン「そうじゃろな。てか恥ずかしすぎるから、止めて欲しいんじゃが?」
オータム「純真な心で見て欲しい! 邪な心があるから恥ずかしいと思ってしまうんだ。魔法少女ほど素晴らしいものはない」(力説)
ナッセ「なぜヴィランなんだろうか?」
ヘイン「さっきまではな。だが今はコレジャナイ感じゃ!」
オータム「という訳でプリキューメンのメンバーを募集している。ナッセお前なら歓迎しよう。お前からは近しい何かを感じる」
ナッセ「え? いや、ごめん……」
オータム「そうか。なんかキラッ☆キラッ☆な雰囲気があったものでな」
ナッセ(オレは望んでなったワケじゃないぞ。師匠のせいでああなっただけで)
モリッカ「わぁー! 僕も憧れてましたね! 魔法少女っていいですよね! フィギュア集めてます!」
オータム「分かるか同志よ! 俺もフィギュア持ってる」
モリッカ「携帯見せるね。たくさん飾ってあるんだー!」
オータム「こっちも見ろ! だが日本の魔法少女っていいな」
モリッカ「でしょでしょ!」
ナッセ「……意気投合してやがるぞっ!?」
ヘイン「流石についていけんのう……」(頭が痛い)
次話『残るはスエック!? そういやアイツ設定固めてないんだよなw』





