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141話「追憶! 『偶像化』の秘密!」

 ヤマミは見開いた!

 目の前でナッセが血飛沫を放射状に散らしながら倒れゆく様を!


「ああ……あ……」


 周囲のあらゆるものが細切れに斬り散らされ、パラパラと亜空間の彼方へと崩れ落ちていく。同時にナッセもアクトも小さくなっていくように落下していく。

 思わず腕を伸ばし、ナッセの手を掴もうとするが全然届かない。遅すぎた。


「ナッセェェェェェェェェェェ!!!!!」


 必死に手を伸ばし泣き叫ぶヤマミを、黒いイバラが巻きついて捕縛────。

 魔女アリエルはせせら笑い目を細めた。




 ……ヤマミは虚ろな目。洞窟を悠々と歩くアリエルに追随するように黒いイバラの群れがヤマミを捕縛したまま運んでいた。

 何もかも失ったヤマミにとってどうにでも良くなっていた。

 この世界も人生すらも────……。


「ふふふ。私のフォースから伝わぁってくる悲愴感んん~~」


 振り向いてきたアリエルの邪な笑い。だが、愛しい者の仇であるはずなのにヤマミは憎しみも恨みも抱けなかった。いつ殺してくれるのかとさえ思った。

 死にさえすれば、また会える。またやり直せる。また────────……。


「残・念、殺さないわよぉ~~?」


 アリエルはふと行き止まりになっている通路の前で足を止めている。手をかざす。すると壁に鍵穴のマークが光り輝く。その中心部から螺旋状に崩れていって深淵の闇がぽっかり空いた。

 そのままアリエルと一緒に入り込む。

 しばしして、闇を覗かせていた穴は巻き戻されるように分割された欠片が元に戻って、ただの行き止まりになった。


 コポコポ……、コポコポ……、闇の中で気泡がたゆたう。


 その中をアリエルとヤマミを囲む泡が沈んでいく。

 より深く、より暗く、より深淵に……。



 ドプン、水面から出るかのように別のフロアの天井から降り立った。

 今度は、さっきまでの鍾乳石やら岩石やら緑コケやら洞窟らしいのとは違い、立派な装飾が施された円形のフロア。ドーム状の天井にはステンドグラスのようにカラフルなガラスで彩られている窓が並ぶ。

 等間隔で並ぶ白い柱。中心部に円型のテーブルのようなもの。


「ふふふ、改めて招待するわぁ~。これが私の『洞窟(ダンジョン)』システムを管理する中枢部フロアよぉ~」


 アリエルは中心部のテーブルをポチっと押す。

 すると複数の半透明モニターがいくつも浮かび、アリエルは器用に指を走らせて何か入力していく。

 そんな事にもヤマミは放心していた。


 ガコン、とテーブルを含む数メートル範囲の床が下降。

 エレベーターのようにス────ッと下降し続ける。すると突然広い空間に出た。ヤマミも流石に見開く。

 時計の機械仕掛けのように、幾重の魔法陣が縦横無尽と複雑に重なったままコッチカッチ回転し続けていた。

 その歯車のような円環は一つ一つが巨大なものだった。それが遥か遠くにまで複雑に入り組んでいた。


「あのバカとは違ぁって、私のは上手ぁく世界に組み込めてる完璧な『全界網羅創造陣(セフィロト)』よぉ~。

 そのおかげで世界崩壊のタイムリミットを延ばしてるってワケぇ~」


 何を言っているのかヤマミには理解が追いつかなかった。

 むしろアリエルはわざと理解しにくいように、崩して説明していた。モヤッとした程度で理解していればいい。アバウトで適当で、やんわりに。

 後で話が繋がって理解できるように、と欠片(パーツ)を投げかけた感じで。


 ようやく最深部なのか、カッチコッチ刻む幾重の魔法陣の円環に囲まれる球状の宝石のようなモノが近づいてくる。それは驚く程に巨大で都市が丸ごと入るくらいだった。

 トプン、と水面に沈むかのように波紋を立ててアリエルとヤマミはソレに潜り込んだ。

 ほどなく天井を抜け出して、ゆっくり下降していく。


 大きな赤い円環で囲む、中心部の円形状の浮遊島。緑が生い茂る中の、白い神殿。そして透き通った川がぐるっと円を描く。


「ここが『洞窟(ダンジョン)』システムを管理する『核』よぉ~~」

「『洞窟(ダンジョン)』……の?」


 するりするり、黒いイバラが解けて地面に沈んでいく。ヤマミはトンと降り立つ。


「ようこそ! いらっしゃぁ~い! ヤマミちゃあ~ん」


 アリエルは満面の笑顔でくるくると踊るように舞うと、そのまま背中を見せて神殿の方へ歩き去っていく。

 ヤマミは僅かに生まれた好奇心につき動かされるように、淡々と後を付いていく。アリエルは半顔で振り向いて満足気だ。

 周囲は広々とした草原に、疎らと生えた木々が黄金の果実を付けていた。まるで天界に訪れたかのような奇妙な光景だった。


 白い神殿はかなり大きくて、塔のように天高く(そび)えている。まるで巨人が住めるかのようなスケールだった。

 支える柱が太く、影で覆われた天井も遥か高い。中心部の柱が一番太くて螺旋階段を巻いている。その螺旋階段に乗るとエスカレーターのように上昇していく。

 神殿というか塔は、何階も階層があってアリエルたちは一番上に移動しているようだった。



 最上部もかなり広い空間が広がっていて、東京ドーム並だった。

 窓が一つもないために薄暗いが、床の魔法陣が青白く灯っている。

 驚いたのが、宙で浮いているヒビ割れた卵のような外殻がゆっくりと回っている。その内側に輝く宝珠が浮いている。その周囲を半透明のモニターが幾重に包んでいる。


「コントロールルームよぉ」

「『洞窟(ダンジョン)』の……?」

「そ。世界と世界の循環を良ぉ~くするための通気路ぉ~(けん)、魅惑的なダンジョンのよぉ~!」


 ノリノリで踊るように体をくねらすアリエル。



「おいおい、そいつがあんたの娘さんかよぉ……」


 ヒタヒタ忍び寄るような足音。黒い三角帽子、黒いローブ、猫背のひねくれたような子供が薄ら笑みを浮かべながら歩いてくる。細めた据わった目、卑しく笑う口角。

 ただならぬ威圧感がこもれでていて、見た目通りとは到底思えない。


「紹介するわぁ。黒薔薇十柱(くろばらじゅうちゅう)が一人、ヤミロよぉ~~」

「ククク……。まぁ仲良くやろうや」


 蛇のような動作で差し出してくる手に、ヤマミは引いた。


「ケッ、嫌われたなぁ……」


 卑しい笑みのまま後ろへと引く。

 アリエルが何気にヤマミの背中を優しく撫でる。悪い気がしないのか、されるがままだった。



「さぁておき、愛しい彼氏(ナッセ)のトコへ行かせる前にぃ、アナタに会得して欲しいモノがあるわぁ~」


 ゾクッと背筋に寒気が走る。

 アリエルの周囲を墨汁のような粘液が溢れ、渦を巻き、外殻を象っていく。

 墨汁が外殻に象ると薄くなるために半透明になるが、縦から見た場合は黒い輪郭のように見える。その外殻は盛り上がっていってアリエルを持ち上げていく。

 今度は黒い絵の具で中を満たして密度が高まっていった。


 ヤマミは呆然と見上げていく。


 蜘蛛のような足で支える漆黒の悪魔城。生きているかのようにドクンドクンと部位ごとに胎動する不気味な風貌。そしてその上で見下ろすアリエルの頭に黒いティアラ。


 周囲を奇妙な風景で包み、「クリクリクリクリクリィ~」と妙な音が響く。


「これが私の『偶像化(アイドラ)』よぉ~~」

「『偶像化(アイドラ)』……?」


 蠢く悪魔城はグパァと牙を剥き出しに扉が開く。その中から(クリ)かと思わせられる奇妙な粒々(つぶつぶ)がボタボタ大量に零れていく。それらはバウンドしながら周囲を飛び回る。

 降った粉雪のように、地面へ次々と溶け消えていく。


「己の『願望』『欲望』を降ろして自身を『堕落(フォーリングダウン)』させると同時に精神生命体(アストラル)へと昇華する。早い話、自らモンスター化する秘術よぉ~」

「モ、モンスター化…………」


 ヤマミはゾクゾクと怖気を覚え、片足が後ろへと引く。

 それでも黒き闇のベールを覆いかぶさったアリエルと『偶像化(アイドラ)』が迫り来る。


「おいおいビビらせんなよぉ? 自分の娘だぜ?」

「あらぁ、ごめんごめぇん」


 ボワッと『偶像化(アイドラ)』を粉微塵に散らして、アリエルは降りてきた。


「己の欲に溺れず、それを上手く制御できてこそ『偶像化(アイドラ)』の極意ぃ~」

「制御……? 極意……?」

「激情と本能が渦巻くからねぇ~、それをコントロォ~ルするのは至難の業ぁ~。でもねぇ~、使いこなせればぁ~無敵ってワケぇ」


 ヤマミの(あご)をすくい上げるように艶かしくアリエルは手で上げる。そして目の奥を覗き込む。

 アリエルの背中から六枚の黒い羽が流動的に生まれて、ブワッと羽ばたくように展開。足元に黒薔薇の花畑がポコポコと広がっていく。急速に咲き乱れ、黒い花びらが舞い続ける。



「愛しく奪いたぁ~いほどに、アナタが欲し~ぃぃモノはなぁに~~?」


 覗き込まれている内に、ヤマミは自分の脳裏に全裸のナッセが浮かぶ。

 白銀の美しい髪。雪のように白い肌。美少年の整った顔立ち。綺麗な輪郭の目。柔らかいピンクの唇。その全てが自分を狂わせるほどに愛おしい。


 ドクン! ドクッ、ドクッ! ドクンドクンドクンドクン!


 絶えぬ快楽の鼓動。ナッセと出会った時から、ずっとずぅーっと我がものにしたいと心の奥底に欲情が溜まりに溜まって徐々に強くなっていた。

 執着したいほどに湧き上がる激情。


 (ナッセ)と結ばれたい! (ナッセ)と抱き合いたい! (ナッセ)と一体化したい!


 (いさか)いを起こして溝を作ってしまい、(ナッセ)への想いが届かないが故の渇望を起爆剤に、黒い欲情が衝動的に爆発する。

 そんな『願望』と『欲望』を黒く顕現化したもう一人の褐色のヤマミがひょっこり妖しい笑顔を見せ、ヤマミの首に腕を回して抱きしめる。


 ドプン……!


 溢れ出る墨汁がねちっこく渦を巻き、ヤマミを包み込むようにシュルシュルと徐々に何かを象っていく……。

 形になった()()を見てアリエルは嬉しそうに邪悪なる笑みに表情は歪んだ。


「あはははははははははははは!!!」


 素ぅ晴らぁしいと、歓喜に沸く魔女の高笑いが響き渡った。

あとがき雑談w


ヤマミ「あの『洞窟(ダンジョン)』って、作れるものなの……?」


アリエル「あのバカだぁって、リスタートさせるために大規模のやったじゃん」

クッキー「誰がバカだってぇ?」(ジト目腕組み)

アリエル「私が見てる先にぃ~♪」

クッキー「ってか直接ナッセ殺したらダメなんじゃないの?」

アリエル「アナタがニワトリ倒した分、セフセェ~フ♪」


クッキー「ぐぬぬ」

アリエル「後先ぃ~考えずにやっちゃうのがバカだってね~♪」


アテナ「ダメです! ケンカ両・成・敗!」(にっこり)


クッキー「え、母さん? なんでここにっ……??」(たじたじ)

アリエル「ちょっ! 母さん悪いのコイt」(慌て)


 両拳のゲンコツでごっつんこ☆


アテナ「ほどほどに仲良くねぇ?」(にっこり)


ヤマミ「母強し…………」(恐怖)

ヤミロ「そいつぁ、同意だぜ……」(汗)



 次話『堕ちたヤマミはどうなってゆく……?』

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