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124話「追憶! ニンジャヒーロー!」

 ──ヤマミと一緒にアメリカへ移住して、二年と三ヶ月が過ぎたぞ。


 夜空に映える大きな月、スーパームーンが映えるアメリカの夜景。

 海付近に(そび)え立つ巨大な像『自由の女神』が荘厳(そうごん)と聖火を掲げている。

 高層ビルが立ち並び、煌く夜街の灯り。夜更けにも関わらず自動車の行き交いが未だ衰えない。



「ヒャッハハハハァ!!」


 ピエロっぽく奇抜な化粧を顔面に施し、道化師風の衣服で、おちょくるような仕草でビルとビルの間をひょいひょいと飛び回る集団がいた。

 その騒ぎで人々の悲鳴が上がる。

 その辺で(おび)えていたキャミソールの美女がひょいと抱えられて、飛び去られていく。


「サラが! サラがー!!」


 友人らしき女性は絶句して悲鳴を上げる。

 するとダダダッと鋭く駆け走る音が近づいた。マフラーをなびかせたナッセは鋭い視線を見せ、地面を割る勢いで高く跳躍。


「スターライト・ライズッ!!」


 星屑を散らす二刀を天高く斬り上げる。鋭く走った軌跡がピエロの両腕を切り飛ばし、血飛沫が舞う。

 解放されたキャミソールの美女を素早く抱えて降り立つ。

 腕を切られたピエロは「ぴぎゃあ!」と道路に落ちてゴロゴロ悶える。ピエロたちは「シット!」と怒りに顔を歪ませた。

 人々は歓喜に沸く。


「オオー!! ジャパニーズヒーローだ!!」


 ピエロは「キルユー!! キルユー!!」と殺気立って一斉に急降下して飛びかかる。

 それに対し、腰を低くして両手に小刀を逆手に握って身構えた。



『ヴィラン』

 アメリカでは、異能の力を持って暗躍して秩序を乱す悪しき者を指す。

 一般人の警察や軍では到底対処できない強力な個体も存在していて、政府も悩まされている。

 日本もそうだが、こうして国ごとにそれぞれ違う敵が存在しているようだ。



 オレは高くジャンプし、()()()()()()()()()()()。足跡のように空中で星屑が散っていく。それにピエロたちは見開く。

 疾風のように通り抜けながら二刀を振るって、縦横無尽と幾重の軌跡を描いた。


 ズババババババッ!!

「ぎええ!」「ぎゃあ!」「ぐわあっ!」「ぐふっ!」「ぎはっ!」


 数人のピエロは一斉に四方八方へと弾かれるように散らされた。いずれも急所を斬り裂かれ、ほどなく黒いモヤとなって虚空へ溶け消えていく。

 街灯柱の上に降り立ち、一人残ったピエロを見据える。


「……もう、お前だけだぞ!」

「く! ニンジャ! ニンジャ!! ファック!」


 ボスらしきピエロは顔面を真っ赤に染め、腕を交差して両拳の先から四本の長いトゲが飛び出す。そして禍々しい殺意を漲らせる。

 狂気に吠え、襲いかかってくる。

 ビルの間を所狭しと飛び回って、あちこち火花散る激突が繰り広げられた。


 ズガガッガッガガガガガッガッガッガガガガガガ!!


 他のピエロとは違って、中々手強いぞ……。

 多分、前々からピエロ狩ってたからボス直々が紛れ込んでいたのかな?


「ジャアアアップ!!」


 やはり強い! ガギン、二本の小刀が両手から弾かれて夜空に舞う。

 勝ちを確信して襲いかかるピエロ。しかし足裏から生み出した星型の手裏剣を浮かせ、それを足場にむしろ高速で突っ込んだ。


「な!?」

 ドスッ!!


 ピエロの両手首をしっかり掴み、膝蹴りをみぞおちにくらわした。たまらずボスピエロは「グゲホッ!」と尋常じゃない吐血をぶちまけた。

 なんと背中から光の刃が突き出ていた。

 ──そう、膝から刃を発生させてぶっ刺したのだ。


 しかし狂気の執念でボスピエロはこちらの頭を噛み砕かんと、大きく口を開けて牙をひん剥いてきた。


 ズドドッ!!


 再びボスピエロは見開いて「ガハアアッ!」と勢いよく吐血。

 背中に二刀が刺さっていた。


 ()()()()()()()()()()を『念力』で後ろから刺したのだ。


星光の短剣(スターライトダガー)。今のオレの武器だぞ」

「ガ……ガッデム……!」


 白目をひん剥いてボスピエロはオレから崩れ落ちると、返り血を含め全てがボシュンと黒いモヤとなって虚空へ溶け消えた。そして地上へ静かにトンと着地。湧き上がる人々。


「ジャパニーズニンジャ、グレイトだぜ!! ニンジャ・ナッセ! ニンジャ・ナッセェ!」


 両手に収めた二刀を星屑を散らして消し、手を振って歓声に応える。



星光の短剣(スターライトダガー)

 今のクラスは暗殺者(アサシン)師匠(クッキー)によると、どうもオレは特殊なクラスらしく、どのクラスにも適性があって順序に会得していく方針になった。

 それがこれ。忍者を意識したように、掌だけじゃなく、肩、前腕、肘、膝、背中、足先、踵、足裏などから自在に短剣(ダガー)を出せる『暗器』みたいな具現化系武器を扱う。

 通常は小刀二刀流のように戦うが、臨機応変に不意を突ける戦い方もする。

 念力も手伝って、戦術に幅が広がっていい感じだぞ。


 ちなみに足裏から生み出した星型の手裏剣を浮かせる方法で、空や水面を走る事が可能なんだぞ。ニンニン!




「いつもおつかれさまね」


 夜遅く家に帰ると、寝ずに待っていたヤマミが優しい笑顔を見せる。

 今はもう住み慣れた家。元々はヤマミが計画通りに持ち出した資産で借りた事になっている。しばらくしたら、またどこか外国へ渡る予定がある。

 だから定住するつもりはないぞ。


「そっちはどう?」

「ええ、図書館あと少しで読破するわ」


 いつもながら感心するぞ……。膨大な量の本を読みあさって知識を蓄えているんだもの。

 オレもこの数年で英語で話すの慣れたけど、本はまだ読み慣れない。


 ヤマミの作った温かいスープがしんみりと五臓六腑に染み渡るぞ。



「……やっぱ、星獣に立ち向かうには弱すぎるなぞ」

暗殺者(アサシン)だものね。対人相手には強いけど……」

「前に二回くらい大型ヴィランと交戦した時、結構苦戦したなぁ」


 トカゲ男は三メートルほどの巨躯で、熊よりも数十倍硬い防御力と攻撃力が脅威だった。しかも俊敏に動き回るので余計手に負えないぞ。



 破壊し尽くされて、亀裂が入ったビルや、ひしゃげた車が転がる交差点。

 そこで暴れまわるトカゲ男は「キョエエエエ!!!」と天に叫ぶ。ワニのような尖った顔に鋭い牙。長くしなる尻尾が車をも弾き飛ばす。すごい膂力(りょりょく)だぞ。

 駆けつけたオレと、魔法少女ヤマミは緊張感を持って身構えていた。


 こちらを敵視と身を屈めて駆け出してくる。ドスドスと重量感たっぷりながらも素早く間合いを縮めてくるのに戦慄を感じさせた。


「行くぞ!!」


 疾風のように通り過ぎざまに二刀の短剣で数回斬りつけるが、薄皮一枚しか斬れない。


「キョエ────ッ!!」


 逆に硬い腕で振るわれる。それを複数の刃を生み出してガードするも砕かれ、数メートル吹っ飛ばされて壁に激突。ズガァッ!

 しかも追撃と間近に迫ったトカゲ男に見開くと、横槍とヤマミの火炎弾がそのワニの顔に直撃、爆炎が流れる。すぐざま通り過ぎる際に首を斬るが、やはり致命傷にならない。くっそ!


「キョエエエエエエエエ!!!」


 ますます怒り狂うだけだ。

 魔法少女ヤマミの振るう杖から火炎弾が連射され、尾を引いてトカゲ男へ襲いかかる。しかしサイドステップとジグザグ刻んでかわしていく。

 今度はこっちも「星光の飛刀(スターライトエッジ)!」と光り輝く星型の手裏剣を複数投げる。それもジグザグと避けられる。ムカつくぐらい器用でかわしてくるなぞ。


「退くぞ!!」

「ええ!」


 素早く後ろ向きで走り出す。それでも手裏剣は連射し続ける。委細構わずトカゲ男は距離を詰めるが、足元が輝く。


 ドガ、ドガガ、ドガガン!!


 地雷のように爆破が連鎖してトカゲ男を包む。

 そう、踏んだ箇所に短剣を埋め込んで『炸裂(バースト)』で起爆するトラップも仕掛けられるぞ。


「ギャガガァ────ッ!!」


 あ、効かんかー……。

 爆煙を抜けて無傷で怒り狂うトカゲ男。しかし見開く。



「……待たせたわ!」


 ヤマミの背後で(エックス)字に並ぶ五つの魔法陣が燦然(さんぜん)と輝きを放っていた。

 これまで支援が少なかったのは、魔法陣を描くため。つまりオレは(おとり)役だぞ。


五重(フィフス・)魔法陣(マジカルサークル)・グランドエックス!!」


 道路をえぐって疾走した膨大な光線がトカゲ男を呑み込み、明々と大爆発が広がった。

 ……あん時はヤマミと一緒だったから、辛うじて勝てたなぁ。



 海を渡る高架橋の道路。潰された車が無作為で散乱していた。


「見てしまったからに生かしておけぬぞォォォォ!!!」


 狂気の顔で叫ぶ白衣の爺さん。それを包む巨大な機械は六本の触手を手足のように動き回る。細かい関節が滑らかで精密な動作が可能。そしてその金属製の触手がムチのように振るわれると、車など軽々と吹っ飛ばし、鉄骨さえ切断するほどの力を発揮する。

 ありとあらゆる武器が通じず、不意の攻撃にも自動(オート)で迎撃もする。

 ヤマミの火炎弾が爆炎を連鎖しても、平然と突破する。


「この最高の頭脳を持つ天才を政府は否定した!! そしてお前らまでが否定するのかァァァァ!!」

「くっ!」


 退きながら仕掛けた地雷式の『炸裂(バースト)』で爆炎を噴き上げても通用しない。

 もっと火力が欲しいな、と思いつつ縦横無尽に()()()()()で飛び回りながら多大な手数で触手と格闘を繰り返す。それは数分も続いた。


 ギッギギン、ガギン、ガギギギッ、ギインッ、ギッギンッ、ガギィン!!


「ナッセェ!!」「後は頼んだぞ!!」


 なんと道路の中から出てきた触手が襲いかかる。

 咄嗟に二刀で交差し、更に軌道上を塞ぐように複数の刃を連ね、触手を()()()受け止めた。

 ぐ! 重い!

 ガラスのように砕け散っていく光の刃。直撃を受けて数メートル吹っ飛ぶも、背中から太陽の形をした大型手裏剣を生み出してクッションがわりにして壁に激突!

 ヤマミの背後で(エックス)字に並ぶ九つの魔法陣が威光を放っていた。


「これで終わりよッ!! 九重(ナインス・)魔法陣(マジカルサークル)・グランドエックス!!」

「な、なぁ!? うああああああ!!」


 見開く老人を眩い光の彼方にかき消し、地面を揺るがす大爆発で轟音が(つんざ)いた。




「……いつもヤマミに任せっきりで悪いなぞ」

「でもすごく頼りになったわ」


 肩を落として(うつむ)くと、肩に手を置いて慰めてくるヤマミ。……温かい。


 暗殺者(アサシン)として多い手数や多種多様の攻撃方法は全クラスの中でも群を抜いて優れているが、いかんせん火力が不足気味だ。

 むしろ槍士(ランサー)の頃の方がずっと攻撃力高かったくらいだ。

 対人相手には滅法強い側面、頑強な化け物相手には歯が立たない。せいぜい(おとり)になるくらいか……。



「明日、気になった図書館へ行くけど、一緒にどう?」

「あ、それいいな。読むの慣れないけど……」


 一緒に行くのも慣れたはずなんだけど、毎回心が弾むなぁ。どきどき!

あとがき雑談w


 ハワイからアメリカへ行く際、不法入国を疑われてナッセとヤマミはたじたじ!

 そこをサングラスをかけた魔女クッキーが凛と登場。


クッキー「全く! 勝手に行かないでくれる?」

空港警備員「保護者ですか?」

クッキー「イエース! うちの子が迷惑をかけたね」

空港警備員「……いえ」


 クッキーはナッセとヤマミのパスポートをジャジャーンと取り出す。


ナッセ「え? 偽造??」

ヤマミ「でも……」


クッキー「本物! ほ・ん・も・の! 因果を組み替えて、()()()()()()()()にしたからね」


 飛行機でクッキーと一緒にアメリカへ飛んだぞ。

 ようやく借家に来て、ナッセとヤマミは「おおー!」と驚いた。


ナッセ「食料も家電も揃っておるぞ!? おお、ゲーム機まで!」

ヤマミ「本まで……?」

クッキー「()()()()()()()()にしたからね。ここまでやれば二人だけでも大丈夫でしょ?」


 颯爽と去ろうとするクッキー。


ナッセ「な、なぁ? 一緒に住んでくれると……」

ヤマミ「これからも助けてくれると、ありがたいけど?」

クッキー「なんでもできる私に依存しちゃうから、今はダーメ!」ツンツン!


 後で気付いたんだが、借家のベッドもセミダブルだったw


ナッセ&ヤマミ「…………//////」ぼふん////



クッキー「あいつら純情(ウブ)だから、キスもできないでしょ♪ たぶん進展もないかなー♪ ヤることヤれたら見直しちゃうかなー♪」(ニマニマと確信犯w)



 次話『とある図書館に隠された秘密を知る!?』

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