120話「追憶! 運命の人との出会い!」
──体育。学校の授業で野球をやっていて、ワーワー盛り上がっていた。
マウンドに立って一球入魂と、思いっきり足を振りかぶって白球を放る。
それは旋風を巻き起こしながらキャッチャーのミットへ轟音を立てて収まる。その反動でキャッチャーは後ろへ弾かれる。それに「おおっ」と驚く周囲の人。
プロ野球も真っ青の剛速球。バッターは驚いて尻餅をついていた。審判をしている先生も唖然としていたが、我を取り戻す。
「ス、ストライークッ!!」
ドワアアアアアアア!! 歓声が上がる。
どうやら精神体に追いつくように肉体も追従するらしく、身体能力の伸び代が広がっていくようだぞ。
師匠はこういう事を言ってたのだな。
ワイワイガヤガヤと盛り上がる最中、チラッと見やると姫カットロング女生徒がこちらに視線を送っているのが見えた。
お、オレを見てるよーな……? ま、まさか……!? ドキッ!
放課後、夕空が暖色のグラデーションに染まっている。
それを眺めながら帰っていると、夕日をバックに一人の女生徒が立っていた。足元から長く伸びた影がこちらの足元に届いている。
「……え? 誰ぞ??」
もじもじ恥ずかしがる姫カットロング女生徒。チラッと上目遣いでこちらを見る。
あ! 体育の時、なんかオレを見てた人だ!
しかし学生特有の未成熟そうな仕草可愛い。うっかり見惚れそうだぞ。
「城路くん。わ、私……夕夏ヤマミですっ!」
「あ……、うん」
立ち並ぶビルの向こうへ沈もうとする夕日。空は紫に濃くなり、やがては漆黒へと染まろうとしている。
そんな中、二人の影が道路で長く伸びていた。
目の前に現れた内気な女生徒。やや俯き気味に口を結び、視線がチラッと上目遣いでこちらへ向けている。
切り揃えた姫カットロングの黒髪が美しく波打つように風に揺れる。
思わず呆然とした。
彼女は恥ずかしげに自分から『夕夏ヤマミ』と名乗ってきたぞ。
このシチュエーション……。まさか…………。ドキドキ。
「告白ッ!?」
濃い真顔で驚きの表情をする。カーッと顔を真っ赤にしたヤマミは、伸ばした手をブンブン振り「ち、違います!」と慌てて否定。
ドガーン!!
否定の矢が胸に強く突き刺さる。ショックで頭ン中真っ白で茫然自失ぞ……。
止めて! そいつは思春期のオレに効く。止めてくれ…………。
「あ、いっ、いいえっ! いっ、今はちょっと心の準備ががが!」
なんか今度はどもりながらわたわた慌ててる。
「……け、消しゴムを空中で止めたの……、なんですか?」
「ああ、それか。まんま超能力の『念力』だよ。魔法と違って、直接念波で発動する術だぞ」
とは言え、超能力の世界では一般人が不自由しない程度の念力を覚えている程度だ。
この念力は『自分の腕力で可能なパワー』を元にしている。従って、目に見えない手を出すようなもんだぞ。それに一度に浮かせる数は、実際に両手で持てる範囲までだ。
だが、通常腕では届かない範囲にも届くのと自身の両腕が自由になる分、メリットがある。
極端に言えば、腕力があればあるほど重いものを浮かせるようにもなれる。自分自身を持てるほどなら、空を飛べる事も不可能じゃない。まぁ、流石に人一人の体重じゃ無理あるかな。
でも、能力を持ち越しできるならもう少し上級編かじっとけばよかったなぞ……。
ワープしたり範囲で浮かしたりする空間系。感情や思考に影響を与える精神系。透視など視覚系などなど……。
相当難しいらしいけど、できてたらもっとできる範囲が広がってたぞ。ぐぬぬ!
「あ、あの、てっきり新しい魔法かなと思ってました。本当にごめんなさい!」
勝手に後悔していると、ヤマミはペコペコと頭を下げる。
しかし、こうしてみれば可愛いなぞ……。ドキドキ。
お嬢様風の、切り揃えた黒髪姫カットロングの美少女。白い肌にピンクの唇。慎ましい目。そして清楚な感じのセーラー服がぴっちりスレンダーな体型に沿っている。
付き合えたなら、天に昇るような気持ちだろうなぞ……。
でもま、無理。
ひと目で高嶺の花って分かるもん。オレなんか全然釣り合わねー。
「じ、じゃあ……城路くん、またね……」
「あ、ああ……、気を付けてな」
互いに手を振って別れる。この時、ヤマミは精一杯に微笑んだ。
しかしなぜか未練たらしくなんかチラチラ振り返りながら去っていく。
でも告白じゃなかったし、オレどっかおかしいのかなぞ? 臭うかな? 帰ったら洗お……。
でも、なんかまだドキドキが止まらないぞ……。
夕日に映えるヤマミの眩しい笑顔を思い返し、体が火照っていく。
カボチャ型のランタンの街灯が灯り、やや黒めの洋館が立ち並ぶ夜景。
あちこち寄り道しながら帰路に着いて、年中ハロウィンやってるみたいな世界の雰囲気に酔いしれる。
「ウホオオオォ────!!」
なんと突然一件の家が大きな拳でグシャリと潰れ、巨人のようなフランケンが太い腕を振るって暴れていた。
ゾンビのような暗めの薄緑の肌にゴリラっぽく体毛が覆う。黒い目に赤い瞳。頭には太いネジが差し込まれている。
ドスンドスン太い足を踏み鳴らし、振るわれる太い腕が家の屋根を木っ端微塵に吹っ飛ばす。バガアッ!
「あ、あれはっ!?」
「逃げろ────ッ!! また吸血鬼の『怪物』だ────ッ!!」
人々が悲鳴を上げて逃げ出す。
……どうやら、この世界では『吸血鬼』が人の世を荒らし回っているようだ。
んで『怪物』は狼男、ゾンビ、半魚人、コウモリ、ミイラ男、ゴースト、スケルトンがいるらしい。そして今のが巨大なフランケン……っぽいゴリラ?
彼らは吸血鬼によって作られて使役されるぞ。
「よし、行くか! 師匠から与えられた新しい力でッ!」
意気込もうとすると、どこからか女性がフランケンの前に降り立った。
黒髪姫カットロングでセーラー服。スラッと凛々しく振舞っている。
あ! ヤマミさん!?
カッと指輪の宝石が輝いた瞬間、ヤマミはくるくると回りながらパッパッと洋服が光の粒子となってスラリとした魔法少女らしい特殊な衣服に変換された。たゆたう髪の毛を波打たせ、両手を組んだ祈るポーズで凛とした表情を見せた。
パシュン、と後光のように放射状の閃光をバックにヤマミは決めポーズで降臨。
「魔法少女ヤマミ! 今、ここにて参上!」キラーン!
周囲の人々は「おおっ!」と感嘆に湧き上がる。
ヤマミは「はやく逃げてくだッ……」と、こちら側へ向くなり硬直。カーッと茹で上がるかのように赤面。
突然、疾風のようにビュンッと飛び去っていった。
「ち、ちょっと待てぞ────ッ!!?」
……つーか、何をしてきたんだぞ?
変身してカッコ付けただけで、どっか行ってしまったぞ??
「ウホァ────────ッ!!」
「きゃあああああああ!!!」
フランケンは覆いかぶさるように太い両腕を振り上げて襲いかかってくる。
ヤ、ヤバッ!
「『刻印』発動ッ!!」
握り締めた右手に『星』印がカッと青白く灯った。
すると内から次第に力が溢れ出した。信じられないパワーが漲ってくるぞ。
フランケンの大きな拳が横薙ぎとこちらへと振るわれる。
人々は「ああっ!」と切羽詰る。
ザンッ!
なんと、太い腕が切り飛ばされ宙を舞う。しばらくクルクルと弧を描いて、地面にドサッと転がる。
フランケンは目を丸くし「ウ、ウゴッ!?」と戸惑う。
「スターライトランス! これがオレの新たな武器だッ!」
両手で斜めに構える、青白く灯る半透明の光の槍。長い柄に、穂となる刀身は星型を模していて上部のトゲだけ長く伸びている。
これは『刻印』によってプログラムされている具現化系武器で、魔法力によって固められたそれは、本物の武器にも劣らないぞ。
「ウホオオオォ────────ッ!!」
怒り狂ったフランケンは顔を真っ赤にして、こちらへ突撃して拳を振り下ろしてくる。
それに対して、棒高跳びのように地面へ槍をぶっ刺してその柔軟で長い柄をグイーンと伸ばしながら高々と飛び上がる。一足遅れたフランケンの拳は虚しく地面を穿つ。
人々は目を丸くし、夜空の大きな満月に重なるオレの姿に釘付けになった。
急降下しながら、念力で呼び戻した槍を取り寄せ、思いっきり振り下ろす。
「スターライト・フォールッ!!!」
すると刀身は星屑を散らしながら長ーく伸びた。それは流星のように軌跡を描きながらフランケンを縦に裂く。そのまま勢いよく地面へ打ち下ろされ、タイル床を割った。ドッ!
両断されたフランケンは左右に離れるように身が傾き、爆破四散。
ドッガアァァァン!!
跡形もなく散り散りと霧散していった。
元通りに縮んだ光の槍を肩に乗せ、感無量した。
「うおおおおおおおおおおッ!!!!」
それに興奮した人々は歓声を上げた。
それを夜空から眺めていたコウモリが「ぐっ!」と歯軋り。
《お、おのれ! 熱い眷属である親友『フランケン・ドラゴリラ』をッ!!》
光の槍の男を憎々しげに睨み、ボッと身を炎で包んでいく。それはまるで火炎の矢のように超高速でナッセへと急降下。
そのコウモリは悪魔のように笑いながら《ははは! バーニング死ねいッ!!》と叫ぶ。
しかし、一条と駆け抜けた紫の光線がコウモリをバチッと粉々に弾く。
それに気付いたオレは「あ……」と竦んだ。
「油断はダメ! さっきのは『吸血鬼』の分霊コウモリですっ!」
トッと屋根に舞い降りた魔法少女ヤマミが、気丈な表情で見下ろしてきた。
そして彼女と視線が合い、しばし見つめ合ってしまう。
それが運命の出会いだとオレは感じたぞ…………。
あとがき雑談w
ナッセ「これが……運命の出会い……!」(ゴクッ)
ヤマミは頬を赤く染める。ぼふん/////
ナッセ「でも魔法少女のヤマミはグッとくるなぞ」
ヤマミ「あ……あれがいいの?////」
ナッセ「だってカッコいいじゃん! スラリと綺麗なスタイル映えるぞ!」
ヤマミは顔を真っ赤にして茹で上がる。ぼふふ~ん//////
ヤマミ「あ、あばばばばば///////」
黒マフラー女「…………当時、言って欲しかった」ボソッ!
次話『ヤマミと別れて、二度と会えない? 一体何が?』





