114話「追憶! ナッセの覚醒!」
────暗転が明ける。
ナッセとアクトが最終フロアへと踏み入れ、後方からヤマミとスミレが続く。
そのフロアは奇妙な空間で覆われ、辺り一面は高低差激しい荒野の墓場。空は虹色のモヤでたゆたう。無造作に転がる棺桶にY字の墓標が突き立ち、まるで墓標が棺桶を貫くかのような怖気走る風景……。
群れる鳥のように数多の飛行頭蓋骨が渦巻く。
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!
飛行頭蓋骨は、こちらへ「死死死死ッ!」と不気味に連呼し続けていた。
ヤマミとスミレとリョーコを後衛にオレとアクトは汗を垂らし、前線で睨み据える。
フロアの奥行に装飾や宝石で飾った黄金の王座。漆黒の衣を纏う骸骨のような大男はそこに佇んでいた。
「カカカッ! ……今度は人間風情が四匹、愚かにも来たか! 儂が名は不死王リッチ・デスシ!! 汝が魂に刻むが良い!!」
破けている漆黒の衣を大仰に広げ、両手をあげながらリッチは浮上する。
コッツ、コッツ、コッツ、コッツ!!
スミレと一緒に両手を挙げ「レヴ・フカーズ」と唱える。光子の吹雪が舞い、全員を包んで染み渡る。
例によって精神生命体には物理攻撃が全く効かない。
魔法力とオーラを混ぜるエーテルが出せない限り、こうやって霊属性を付加させて攻撃するしかダメージは与えられないぞ。
「アクト行くぞッ!!」「おう!」
片手を上げ、火炎球を『衛星』で生み出し、ポコポコと無数に複製させた。
アクトは刀を引き抜き、地面を蹴った。
リッチが大仰に腕を振ると、飛行頭蓋骨がビュンビュン飛びかかってくる。
「死死死死死死死死死死死ッ!!!」
「ホノビ多重爆撃!!!」
腕を振り下ろすと、ドドドドッと轟音鳴り響かせて赤い尾を引かせながら火炎球は撃ち出された。まるでレーザーだ。
それらは飛行頭蓋骨を爆炎で消し飛ばす。いくつか残った火炎球がアクトを追い抜いてリッチへ着弾。
爆炎が連鎖してリッチを覆い「ぐああああ」と絶叫が響く。
「があああっ! 紅蓮斬ッ!!」
アクトの振りかぶった剣に紅蓮の炎が纏う。轟々と燃え盛る炎の軌跡が弧を描きリッチを斬り裂いた。
真っ二つにしたかと思った瞬間、リッチはねちっこい笑みを浮かべる。
「ぐ……!」
ナッセ、アクト、ヤマミ、スミレは荒い息をしてへたばっている。
それを見下ろすリッチは「カカカッ!」と嘲る。
後ろでリョーコは震えながら壁に張り付いていた。あれから奮戦したというのにリッチに何度ダメージを与えても倒せず、苦戦を強いられた。それでリッチの繰り出す攻撃でダメージが蓄積して、誰もが体力の限界に瀕していた。
「おお、そうじゃ! 言い忘れておったわ」
リッチの呑気な声に、怪訝と目を細める。
「エレナは儂が殺したわ……!」
二ヤリとリッチは歪んだ笑顔を見せた。ザワッと殺意が湧き上がる。
ゆらりと立ち上がる。
腕を交差し、周囲から明々とした光子が吸い寄せられるように収束。キュイイィィィ……。
「てめぇ! 跡形もなく消しとばしてやるぞッ!!」
ゴウッとオレを包むように灼熱の帯が噴き上げた。リッチは「ほう?」と嘲笑う。
次第に大地を揺るがしていく。ゴゴゴゴ!
「弾け散れっ!! 大爆裂ホノ・エクスプロージョンッ!!!」
交差していた腕を広げ、膨大な量の爆炎は怒涛の嵐のように放たれた。
リッチは『巨神髑髏像』と呟き、巨大な漆黒のがしゃ髑髏が背後からスウッと這い出て包み込む。更に暗黒髑髏の盾を前方に展開。盤石の防御布陣だ。
──しかし、押し寄せた灼熱の激流がその盾を蒸発。見開くリッチ。
「な!? ぐぎゃああああああああッ!!!」
がしゃ髑髏もろともリッチは眩い灼熱に呑まれていく。劈く爆音と共に大地を揺るがし、大爆発は最終フロアの壁をもぶち破って外側の亜空間へ大規模に吹き荒れた。
ゴオオオオオォォォォンッッ!!
揺れる大地、吹き荒れる烈風にこらえながら、誰もが「す……すごっ!?」と驚愕する。
荒い息をしながら苦い顔をする。前かがみに崩れそうになる体勢を、膝に手を置いてこらえた。
「大爆裂魔法……。元は師匠の得意技だったぞ。これなら────……」
咄嗟にリョーコが「危ない!!」と、前に飛び出す。
ドスドスッと無数の黒いトゲが彼女を貫く。血飛沫が踊る。思わず呆然……。
「ク……カカカッ! う、迂闊だったわ……! 必死に盾や髑髏像を連発し続けなければ一巻の終わりだったわ……! ぬう? 小娘が邪魔を??」
「リョーコッ!!」
「ごめん……」ゴホッ!
「なぜこんな事をッ!」
リョーコは震えながら精一杯の笑みを見せ、力を振り絞ってオレの頬を手で触れる。
今すぐ回復魔法をかけようとすると「無理だから」と首を振られる。既に致命傷。トゲが刺さったまま抜けない。
「最後まで……役立たずで……歯がゆかった……。ご……ごめんね…………」
頬を触れていた手が力なくぶら下がっていくのを見て、血の気が引く。
内気なオレにこれまで優しくしてもらった思い出が走馬灯となって脳裏を駆け巡る。
初めての入学で魔法でリョーコを助けた後、グイグイと親しげに絡んできた。美人で胸が大きくて明るくて、一緒にいると楽しくなれる。胸が躍るほどの高揚感。学院生活が明るく楽しく思えた。
一緒に週刊雑誌を読んで、あれやこれや感想を述べた。
アニフレンズという店でグッズや筆記用具を買ったりした。
最後に笑顔で手を振って別れる。また朝、一緒に通学できるように、と…………。
その焼き付いたリョーコの眩しい笑顔が脳裏から離れない。
「リ、リョーコ…………!」
震えながら呆然するナッセを、リッチは嬉しそうに見下して笑む。
そういう悲劇に打ちひしがれる人間から湧き上がる負の感情。それがたまらなく美味しく感じた。トドメを刺さず、ナッセの絶望を吟味するように快楽に酔いしれた。
「カカカッ! 次は誰を殺して欲しい? そこな黒髪の小娘か? それとも侍の青年か?」
「……るさない!」
「ん? 何と言ったかね?」
「てめぇ! 許さないぞッ!!」
怒りを顕わに涙を流し、リッチを睨みつけた。
次第に大地が震え始めていく。リッチは思わずゾクッと寒気がした。
ナッセの周囲に旋風が巻き起こると共に、フロアを圧迫させるほど急激に巨大な威圧が膨らんだ。
ナッセの足元からポコポコと光の花が咲き乱れ、それは周囲にも広がっていく。
「こ、こやつ……!?」リッチは青ざめて見開く。
光の花畑から花吹雪が舞い上がり、ナッセを囲むように螺旋状に舞い踊っていく。
銀髪の後ろ髪がロングに伸び、背中から光の花が咲く。その中から二つの花弁が離れ、それは大きくなってまるで大きな翼のように背中付近で滞空した。
「おおおぉぉおおぉおッ!!!」
天に向かって激情に吠えた。
ゴゴゴゴと大地が震え、光の花畑が騒ぎ立てていく。なおも花吹雪混じりの吹き荒れる旋風は絶えない。
ギッと歯を食いしばり、灯る眼でリッチを睨む。
その瞳はまるで宝石のように淡く輝いていて、虹彩に浮かぶ星のマークがファンタジックだ。
リッチはその恐ろしい威圧に冷や汗をかき、恐怖に覆われた。
「な、何者だッ!! 貴様も精神生命体────!?」
無数の飛行する頭蓋骨が「死死死死!」と連呼しながら、ナッセへと大挙して飛びかかる。
右手を左肩までに引き「邪魔だ! 失せろッ!」と右へと大仰に振り払う。
すると破裂する風船のように飛行骸骨は全てパパパンッと弾け散り、代わりに花弁が散らばった。
「あ……、ああッ…………!」
リッチは口を開け、徐々に後ろへすざっていく。
ナッセの怒りに呼応するように大地を揺るがし、広範囲に吹き荒れる花吹雪。
なおも勢力を広げる花畑。
リッチは「くっ!」と高らかに両手をあげた。囲むように数え切れないほどの骸骨蛇が地面から這い出てナッセへ襲いかかるも、破裂するようにパパパパパパパンッと連鎖して弾け散る。
そして花吹雪が優雅に舞う。
「よ……妖精王……だと……!? な、なんで……ここに……ッ!?」
リッチにとって最悪の相性だった。
負の感情を糧にする邪悪な精神生命体のリッチにとって、浄化系を得意とする聖なる精神生命体は天敵だ。しかも種族最上級のドラゴンと対なすのがフェアリー。破壊と浄化。性質は正反対だが、どちらもとてつもない巨大な力を誇る種族だ。
「くたばれ!!」
瞬時にリッチへ迫り、思いっきり光の拳で頬に殴りつけた。
ドガ!!!
大地震える衝撃と共に、吹き荒れる花吹雪混じりの旋風が一気に広がった。
強烈な一撃を受けたリッチは苦悶に顔を歪ませ、メキメキと拳がめり込んでいく。パァンと顔は粉砕。続いて胴体から裾までパラパラと分解されて花弁に散っていく。
リッチだったモノは渦を巻きながら広々と散っていった。そしてキラキラと煌く光飛礫が儚げに連鎖して広がっていく。
「リ、リッチを……、い……一撃で…………!?」
ヤマミとアクトとスミレは驚きに満ちながら立ち上がる。
気付けば、疲労や傷はおろか汚れすら消えていた。まるでリッチとの戦いが嘘のようだ……。
そしてヤマミは潤んだ目でナッセの背中を眺めていた。
広々と花吹雪が上昇していく最中、二つの浮いている翼。美しく揺れる銀髪の長髪。
ヤマミたちの方へ振り向いてくる悲しげな顔のナッセ。頬を涙が伝っている。不謹慎と思いつつも、神秘的で美しいと心がときめく。トクン!
「リョーコ……」
ぐったり事切れているリョーコへ歩み寄り、膝をついてへたり込む。
────暗転。
《ふぅむ、これまでに多くの死を看取ってきたか……》
気付けば花畑が広がる遺跡。白い雲たゆたう青空。
そして雲や海など地球のような地表の巨大な猫が荘厳と佇んでいた。大きな尻尾がふりふり揺れる。
「ち、地球の星獣ぞっ!!?」
《ん? おや、意識が同調してきたか?》
見下ろす星獣と目が合ってしまう。
あとがき雑談w
ウニャン「わー! 妖精王だったんだねー! すごいなー(棒読み)」
ヤマミ「前にナッセに何か与えたって言ってたでしょ?」(ジト目)
ウニャン「な、なんのことかなー?」ギクッ!
ヤマミ「それじゃボイスレコーダーポチッと」
「ナッセ君を何度も弟子にして封印式の『刻印』を施し、そして創作士としての力の使い方を教えた。増大していくMPに体が耐えられるように妖精種も植えた」
※六十五話「ヤマミの決意!」より抜粋。
ウニャン「うにゃああああああああ!!!」
ヤマミ「ふふふw さぁ白状してもらいましょうかw」
次話『星獣の力を借りて、過去編へ!!』





