エルフに乗るエルフさん
これは周知の事実ではあるのだけれど、現代日本においてエルフは一次産業に従事している者が非常に多い。
なにせ昔から──年齢を数える単位が世紀のエルフもいると言えばいるので──自然に揉まれて生きてきた彼ら、彼女たちだから農耕牧畜系のキャリアが違いすぎる。
だから、エルフは現代でも、台風が来たら涙を流し、寒害にブチギレ、バッタを食いまくり、イナゴを白ご飯にのっけて食って、野菜を品種改良してにやついている。
これらのことは、義務教育の教科書に載っているような内容で、いわゆる一般常識みたいなもんだ。
ただ。
「エルフが軽トラを乗りこなしている……!」
実際に見ると、それはそれで驚きはする。魔法とかも使える、比喩表現として妖精と呼称されがちな容姿端麗種族なので。
「なにに驚いてるんだお前は。エルフの里に昔から伝わる教えとして、成人したエルフはエルフに乗れというものがあることすら知らんのか」
「嘘こけ」
少なくとも、昔から伝わるようなもんじゃないだろ。
農道をがたがた走る軽トラを運転するエルフは、例に漏れず農業従事者だった。かいわれ大根が得意らしい。
「みごとな近郊農業」
「マンドレイクとだいたい同じだからな」
「え」
マンドレイクって、叫び声あげるあれのことだよね。
「栽培してんの?聞いた人は、死ぬってやつなのに」
「そんな危険な品種を、無害化しないと?」
「あっ、はい」
食べたら美味しいとかなんだろうか。
「声音が美しい」
「そうかな」
「バラエティ番組の笑い声の半分は、マンドレイクだぞ」
「嘘だろ」
「これは、本当だ」
真剣なトーンで話すエルフ。
車内で流れるFMラジオから、わざとらしい笑い声のSEが聴こえてきた。
そうなんだ……。
「そんなわけないが」
「運転の邪魔してやろうか」
けらけら笑う眉目秀麗野郎(♀)。
だまされたよ!ちくしょう!
なにも、ムダ話するためにドライブをしているわけではない。道の駅に、農作物を出荷する途中だった。
地面もコンクリートに舗装され、揺れることがすっかりなくなった。
「しかし、まあ。かつてはユニコーンに乗ることもあったが、軽トラのほうが小回りがきいて便利だな。野菜を載せても文句を言われない」
「へー……………ユニコーンいたの!?日本に!?」
「だから、バンド名にもなっているだろう?」
「嘘つけ!」
「本当だ。日本原種のドラゴンは灰色だったから、それもバンド名になっている」
「そんな理由でついてんなら、日本列島がXの形してたことになるだろ」
「そうだが?」
めっちゃ真剣にこっちを見つめてくるアホ運転手。
前を見て運転してください、おねがいだから。




