95 少女は知らせを受ける。
色々と問題がまた積み上がっていきます。
何ちゃって万能薬は無事に完成した。
完成したのがいいが、
「どうしよう、これ?」
「じじじ(強い力は感じる。)」
「ぴゅううう(元気になるかも、でも毒の可能性も高いよ。)」
テーブルに置かれた丸薬(見た目はお団子)はざっと10人分。入手が困難な精霊草は、まだまだ生えてきそうなので、更なる量産も可能。
「問題と効能と、その製法の難しさと。」
ぽそりとつぶやく問題はそこである。伝承通りの製法で作ったこの薬からは、尋常ならざる気配を感じるけど、人間相手に治験をしないことにはさすがに使えない。村にいたときは、頑丈なドワーフや獣人、ケイ兄ちゃんあたりを実験台していたが、さすがに学内でそれをするわけにはいかない。
「お嬢、手紙です。はいってもいいですか?」
「うん、いいよ。」
ノックされて私はこの問題を棚上げすることにした。さすがに自分だけで判断するほど愚かではない。
それ以上にそのあとの手紙に驚かされて、記憶から飛んでしまったともいえる。
「ハッサム村と、王城からか。いよいよ、王子を通さず直接送ってきたか。」
「あっいえ、スラート王子とガルーダ王子の両名から正式受け取りました。なんなら外でお待ちいただいています。」
「そういうことは真っ先に言おうね。でも、聞くまで黙っていてくれてありがとう。さすがに心臓が持たないよ。」
「ははは、内容は見ればわかるそうです。」
王子たちの気遣いなのか、それとも他の人のお手紙なのか、すぐに返事をしないといけない手紙なんだろうけど。
「まずは、村からの手紙を読もう。うん、将来の領主としては、自領は大事しないとね。」
「いや、僕はなにも見てませんからねー。」
「あっ、リットン君あての手紙も入ってるねー、トムソンさんらしい。」
ハッサム村からの手紙はそれほど多くない。郵便制度なんてものがないこの世界において、手紙は割と高いし時間がかかる。だから、アサギリ村への運ばれる荷物のついでに私たち宛の手紙が便乗し、アサギリ村から学園へ届けられる。
「うわー、まじかよ。」
そんなわけで、その情報は、一か月ぐらい誤差がある。手紙はそのあたりを考慮して日付や季節の挨拶を丁寧に書くのがマナーだ。
そんなことを一切配慮していない父ちゃんの大雑把な文章による村の近況報告。相変わらず農業は上手くっていること、ドワーフ達が休耕地に新しいアスレチックを作ったこと。唐揚げが食べたいから、長期休暇には帰ってこいという催促。そんな中にひょっこりとした文言で
「北伐には、うちの村の若いのも何人か参加したぞ。」
そう書かれた文字を見てしまったとき、私はめまいを覚えた。
若者が夢をみて、都会へ出たり、大規模な軍事行動で志願するということは珍しくない。なんなら、数年前のハッサム村は、子どもと老人しかいなかったぐらいだ。
「リットン君、北伐馬鹿どもが参加してたんだって。」
「ああ、父の手紙に書いてありました。ケイ兄ちゃんとハークスさんのところのレルさんとルドさん、ラッカムさんとこのコトエさんにガンテツさんのお弟子さんのスパルさん、あとリビオンさんも心配だからって参加したって。」
「跡継ぎ候補が軒並み、家出とか、ふざけんなー。レルとルドに至っては奥さんいたよね、所帯持ちが冒険すんなー。」
ケイ兄ちゃんは、ガキどものまとめ役で、最近は村の案内なんかも任せていた。レルとルドは、うちの主力商品となった養蜂の専門家であるハークスさん家の息子さん達で、都会へ出稼ぎに行っていたのをわざわざ呼び戻したばかり。コトエさんは数少ない結婚適齢期の独身女性で、ドワーフは、貴重な労働力。どれも逃がすには惜しい人材なのに。
「ちっ、ボルド将軍の野営地で見つければ強制帰宅(物理)をしていたのに。」
「ああ、お嬢はそう言っているけど、将軍にも気に入られていると伝えろと書いてある。」
「なにー、ちょっと見せて。」
ひったくるように手紙を受け取ると、割と詳細に彼らが父ちゃんに直談判して、北伐への参加を願い。入隊試験で好成績を残して、ボルド将軍からも直接、手紙をもらったとあった。
「あのタヌキジジイ。田舎の貴重な人材をー、3年かけて育てた人材をヘッドハンティングしやがった。」
志願して、入隊試験を受けたのは彼らだ。だが、ボルド将軍、いやボルドのおっさんは、知っててとぼけていたんだ。なんなら私の滞在中に万が一にも遭遇しないように手を回してやがったわけだ。
「まあ、帰ってきたら、きっちり話はしておこう。」
獣人国の偉い人であるリビオンに何かあれば問題だけど、ボルドのおっちゃんが言っていた通りの状況なら、死ぬことは・・・まあないと思っておこう。何かあってもなんだかんだ生き残るだろうし。
「これは一旦置いておいて、じいちゃんからも手紙というのも珍しいなー。」
普段の手紙は、トムソンからの収支報告と、父ちゃんからの近況報告と帰省の催促ぐらいだ。薬関係でじいちゃんへ手紙を出せば返事をくれるが、王都での流行り病については、これから手紙を書こうと思っていので、要件はわからない?
「なになに?」
字こそ細いが父ちゃんとよく似た豪快な文字。癖があるのは我流で学んだからだそうだが、
「最近の活躍はこちらにも届いている。ボルドという男は無視していい、薬師なら戦争には関わるな。お前のことだから、手伝っても準備までだと思う。そしてそれを気に病むかもしれないが、その先はバカどもに勝手にやらせておけ。」
読む相手のことを考えない要件だけの手紙。それだけで私の考えは見透かされていたようだ。
「貴賤も理由も問わず救える人間は救う。救えない人間まで背負って大切な事を見失ないこと。何をするにもそれだけは忘れないように。」
手紙に書いてあったのはそれだけだった。でも充分だ。
「わかってるよ、じっちゃん。」
薬師の技術もゲームの知識も、田舎でのスローライフを実現するためにしか使ってないから。そのために考えて、対処した結果、こんな忙しない日々となっているわけだけど。
「初心を忘れてはいけないねー。リットン君?」
「は、はい、そうですね。頑張って勉強して、父の跡を継げるように頑張ります。」
「ははは、別に無理に継がなくていいよー。ハッサム村よりもいい場所を見つけられただけど。」
私は、私でハッサム村を理想的な場所にするまでだ。
そのために今日もがんばらないと、いやたまには休んで昼寝でも。
「お嬢、王城からの手紙をスルーするのはまずいですよ。王子様達も待ってますから。」
世の中、そんなにうまくはいかないものだ。
ストラ「しょせんは小娘よねー。なんか勝手に物事は動いていくわ。」
リットン君「お嬢も大概だけどなー。」
雨の湿気と暑さでダウンしていて、更新が遅れてしまい、申し訳ありません。なんとか毎日、あるいは2日に1回の更新は維持していくので、今後もお付き合いいただけると幸いです。




