80 異世界クッキング、いえ、健康ドリンク作りです。
異世界料理教室?
強制安静薬もとい、睡眠導入効果のあるお薬を処方したうえで、その日はカイル先輩を寮へと返し、私はその足で寮の食堂へと足を運ぶ。
「あっストラ様、今日は何を作るんですか?」
「うん、今日は大したもんじゃないよー。あと様づけはやめてください。」
色々やっていた関係ですっかりと顔パス、むしろ期待されまくりで厨房に入り、準備をする。
「じじじ(材料ヨシ)」
「じじ(今回は結構な量ですねー。)」
「じじじじ(ドワーフの新作も届いている。)」
重い荷物はハチさん達におまかせ。用意したのは、山盛りの野菜や果物各種と、最近届いた、ドワーフの新作ギミックだ。
「まずは、野菜を水洗いして一口大に、果物は皮をむいておくと。」
トントンと軽快に包丁で切っていると、夕飯の仕込みが終わった調理人さんが数人寄ってくる。
「手伝うよ、これは切り分ければいいのかな?」
「あっ助かります。」
「その代わり、レシピとかは覚えさせてもらうぞ。」
「今日はどんなごちそうなのかしら。」
「野菜の種類的にはサラダっぽいわねー。」
レシピと材料の一部を提供する代わりに厨房の使用許可をもらっているけれど、私の作るものは面白いらしく、私が何かしているときは、手の空いた人が自然と手伝ってくれる。今回作ろうと思っていのは割と手間がかかるのでありがたい。
「とりだしたるは、ハッサムの新作調理器具―♪」
どんと音を立てて調理台の上に置かれたのは、一抱えほどのガラス瓶だった。容量は2L、内部にはプロペラみたいな刃物がいくつかついており、そこにはスイッチと紐付きのレバーがついていた。もったいぶるのもあれだ、ミキサーです。ミキサーを作ってみました。
「なんかすごい機械だね、ガラスでこのサイズって重いでしょ。」
「ガラスなのがいいんですよ。」
金属だとにおいが映ったり腐食したりする、木製は防水対策が微妙なので却下。ガンテツのおっちゃんに無茶ぶりをし、一年近く試作を繰り返して先日完成したものだ。
「レッテ、このあたりの果物は氷漬けで。」
「ピュー―(おまかせ)」
一口大にカットした果物を、レッテちゃんに氷漬けにしてもらう。冷やすだけなら冷蔵庫的な魔動具もあるが、アイスピグの冷却能力だと余計な水分を含ませずに瞬間冷凍できるのでよりおいしい。
「まずは、ベースにバナナを大量にどーんと。」
凍らせたバナナ(温室からパクってきました。)の皮をむいて次々とミキサーに放り込み、牛乳をなみなみと注いだあとで、レモン汁を混ぜる。そこまでしたら蓋をしてスイッチをオン。
「おお、なんかすっごい音が。」
「こ、これ大丈夫なの?」
うんミキサーの音ってビビるようねー。ただこのミキサー魔法的なサムシングで動いているからモーターとかないはずなんだけど。うん、深くは考えまい。
「適度に混ざったらハチミツを加えて更に混ぜる。」
まずは、王道のバナナスムージー、フルーツジュースじゃなくてスムージー。
「今日は飲み物なのか、なんかトロッとしているな。」
「果物の香り?これってバナナってやつだっけ、面白い香りね。」
「すぐ、黒くなって腐るからなかなか食べれないんだよなー。
そういえば、この世界ではまだバナナは珍しいらしい。日本だととりあえずバナナぐらいの勢いでパフェとかにはいっていたけど、あれかなー、見た目がすぐ悪くなるからだかな。
「皮ごと冷凍するか、皮をむいてレモン汁をかけてから冷凍すると長持ちするらしいですよ。」
「なるほど、ためてしみるか。おい、ちょっと温室行ってバナナもらってこい。」
「ういー。」
あれだ、地元のドワーフ達とノリが似ている・・・。
「さて、ここからはアレンジか。」
まずは無難にベリー系、ブルーベリーやラズベリーとたくさんあったそれらをバナナスムージーに投入して再度ミキサー、そうやって混ぜた場合は、ブルーベリーの色が強く残った紫なスムージーになる。
「酸味が加わって、これはこれで。」
「バナナだけの方が好きかも。」
まあ、好みって分かれるよね。ではこれはどうかな。
「な、小松菜、野菜を混ぜるのか?」
小分けした小松菜を投入すれば鮮やかな緑色のグリーンスムージー。単品だと野菜の癖が強くなりがちだけどバナナベースに作ることで飲みやすくなる。甘さが欲しい人はリンゴを加えてもいいです。
「ほうれん草とかセロリでもいいと思いますよ、」
見た目もきれいかつ野菜も摂取できるお得なものだけど。
「トマトでゴー。」
トマトを使ったレッドスムージーに、茹でた人参を使ったオレンジスムージー。
「すごいな、なんか楽しくなってきた。」
「バナナ以外の組み合わせもいいわね。」
そして気づけば代わる代わるにミキサーに野菜や果物を放り込んでオリジナルのスムージーづくりが始まってしまった。
「まあ、そうなるよねー。」
「ぴゅーーー (確かにおいしい。)」
野菜ジュースがスムージーと呼ばれるようになったのは何時からだろうか?ただ牛乳やヨーグルトと混ぜたり、バナナをベースに作ると飲みやすい。そんな流行りに乗っかって自宅にミキサーを置いていたっけ。
「ストラちゃん、このミキサーって。」
「魔導型は、それなりですけど、手動型なら、このくらいの予定です。」
スイッチを押すだけの魔導型、そしてレバーを引っ張ることで動かす手動型。両方の機能を備えたハイブリット型の三種類をご用意しております。
「近く、アサギリ村の方で販売するそうですよ。」
「そうか、これは自分の家にも欲しい。手軽に野菜を取れるのがいい。」
生野菜を食べるのはしんどい時がある。火を通せば食べやすいけれど、栄養が半減してしまうことがある。そんな中、飲みやすく、栄養効率もいいスムージーは、前世でもかなり流行った。おしゃれ系の人の朝食の定番といった感じだったけど、ミキサーの騒音が朝からうるさいってトラブルと結構あった。
そして、何より。
「飲みすぎるとお腹が緩くなったり、太ったりするので気を付けてくださいね。」
「まじ?」
栄養効率が言い分、糖質や食物繊維を過剰に摂取してしまうことが、スムージーの注意点だ。飲みやすいのはバナナなどの果物やハチミツの甘味によるものだ。カロリーも割と高めだから飲みすぎると確実に太る。
ちなみにだが市販の野菜ジュースも甘いやつはわりと注意が必要だ。1日分の野菜を摂取しつつ、糖分の過剰摂取なんて笑えない。
「一日、コップで一杯。多くても2杯ぐらいにしたほうがいいですよ。お酒と同じです。」
そもそも何倍も飲めるものじゃないしね。残った分は冷凍して保存してもらおう。
閑話休題
ミキサーを使ってスムージーを作ったのは、久しぶりに飲みたくなったわけで、カイル先輩とか、悩めるスポ根ども向けにはこれからやらねばなるまい。
「さてさて、ここからが本番だ。」
ミキサーを洗って、しっかりと拭いてから乾燥させておく。
そして、用意した素材はサンちゃんとレッテにお願いして、ドライにフリーズして乾燥させる。
用意したのは、小松菜にキャベツとセロリと手に入れやすい野菜に、ケールや明日葉に大麦若葉といった珍しい葉っぱなど数種類。ケールと明日葉は薬草扱い、大麦若葉に関しては麦を収穫したときに捨てていたそうな。なんてもったいないことを。
「これ、粉になるなー。」
マスクと手袋をしてから、それらの素材をミキサーに入れて、蓋が密閉されているか厳重に確認してからスイッチを押す。
「あれ、水とか牛乳はいれないの?」
「粉末にするのが目的なんですよ。」
時折質問に答えながらもガラスの中の野菜の様子に視線は向けたまま。大事なのは、ほどよい粉末加減だ。中途半端だと繊維が残って喉ごしは良くないし、やりすぎて熱がこもると一番欲しいビタミンが減ってしまう。そのあたりは薬師としての腕のみせどころだが。
「ここだ。」
微妙に色が変わった瞬間にスイッチを止めて、即座にミキサーから出し、レッテに頼んで冷やしてもらいながらすぐに蓋をする。
「ジジジ(空気抜く。)」
そのままハチさん達にお願いして容器の中の空気を抜いて真空パックのようにする。これで長期保存が可能となる。味見はミキサーに残っている分で大丈夫だろう。
「うわー、匂いスゴイ。」
「くさ、くはないか。なんというか野菜の香りが圧縮されている感じか?」
「ふりかけとか調味料に使う感じか?」
「あっそれ美味しそうですね。」
ドライフルーツはハッサム村でも作っていたけど、乾燥させたものを粉末にして料理に使う発想はなかった。専門家の視点というのは興味深い。
「まあ、とりあえず。これはこのまま水に溶いて飲みます。」
ミキサーに残っていた粉末はスプーンで数杯分もない。それでも特別濃厚なので1L分ぐらいの青汁となった。それをショートグラスにちょっとずつ入れてその場に置く。
さてはて、なんちゃってフリーズドライな青汁粉末だけど。
「ぐあ、濃い。」
「に、苦いー。」
近づけるだけで鼻に襲い掛かる野菜の青臭さ。口に含んだ最初は野菜の爽やかさがるけれど直後に葉物野菜特有のエグミと苦みが襲い掛かってくる、あれだ、セロリ、セロリの味が強い。
「ああ、これ一応、クスリですからねー。」
「「「先に言って。」」」
大ブーイングをもらったことは言うまでもない。
ストラ「まずい、もう一杯。」
はる「じじじ(ますいのに、なぜ?)」
サンちゃん「ふるるるる(こいつはやべえ、匂いだけで気絶しそうだ。)」
青汁はま隋というのは、とあるCMのイメージが強いそうです。市販の青汁は割と飲みやすいです。なおストラは意図的に苦くて匂いの強いものを作っています。
次回はそれを振る舞われるカイル先輩と巻き込まれた一般生徒のお話です。




