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この花は咲かないが、薬にはなる。  作者: sirosugi
ストラ 12歳 学園編

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75  創始者と経営者は違う①

学園の外へとお出かけする話

 学園の端っこの更に端っこ、私用の用意された学年園は未だ手つかずの荒れ地となっている。

「ぐるるるる(あっ時間?)」

 現在は愉快な動物ファミリーのパワー枠であるクマ吉の寝床(停留所)になっているその場所は人避けの結界が貼ってあり、関係者以外は立ち入り禁止のクマ吉たちのプライベートスペースとなっている。

 えっ学園の土地を私物化してないか?いやいや、これも土地開発の実験の一環です。一時期とは言え精霊が住み着いた場所にはなんかいい感じの加護がつき、植物の生長がよくなる。その効果の検証と証明のためという名目で私は、クマ吉をここに住まわせてもらっている。

「ぐるるるう(今日はどこへ行くの?」

 けして、お出かけの足が欲しかったとかじゃない。


 のんびりと(それでも前世の車ぐらいの速度)で目指したのは学園や王都より東30キロ。日本で最初の鉄道ぐらいの距離にある中規模の村だ。

 この30キロメートルという距離、馬ならば休憩を挟みつつ半日ほど、馬車なら一日以上かかる距離だが、クマ吉便使えば1位時間もかからない。馬車並みのサイズで速度は前世の自動車並で疲れ知らずなクマ吉君。

「ぐるるるる(ここ?)

「そうだよ、ありがとう。」

 問題があるとすれば、そこそこ目立つことだろう。村の入口ではちょっとした騒ぎになり、村人の大半が遠目に私たちを見守っていた。(けして怯えていたわけではない。)

 ちなみにだが、これが無茶だという自覚はきちんとある。今回は顔見知りの招待だったので、堂々とクマ吉で乗り込んだのだ。

「おお、これはストラ様。本日はありがとうございます。」

「ランドさん・・・痩せました?」

「たしょう、無理はしていましたので・・・。まあ、おかげさまで最近になって落ち着きましたよ。」

 ランドさんはハッサム村と取引をしている商人さんの1人で、うちの村の生命線であるハチミツの取り扱いを一手に引き受けてくれている凄腕の商人さんだ。今日は彼に招待されてここへ来た。

「じじじじ(うむ、相変わらずちゃんとしてる。)」

「じじ(我らのハチミツを粗末に扱うことは許されぬ。)」

「じじじじ(王女様、できましたらここにも拠点を)」

「ははは、ハルさまも、精霊様たちもお元気そうで何よりです。アサギリ村一同、お会いできて光栄であります。」

 動物ファミリーとも面識があるランドさんを筆頭に、村人たちは緊張しつつも私たちを歓迎してくれた。

 うん、そのうち慣れてくれると信じよう。


 ランドさんがまず案内してくれたのは、入口近くにある集積倉庫だった。

「ハッサム村をはじめ、各地で仕入れた商品は一先ずここに集積されます。その上で、加工や保存法に応じて村の各所へ運ばれていきます。」

 天幕と簀の子を引いただけの簡易的な場所には、うちの村から卸された、たる入りのハチミツや、砂糖、小麦粉などといた物資がおかれ、次々と運ばれていく。

「仕入れ、買い取りなどはここで行い、大口になる場合は更に奥へと進むのです。」

 そういって案内されたはの、しっかりとした作りの倉庫だった。外壁が木造ながら内側には土が詰まれ頑丈さと気密性が保たれた場所はひんやりと冷たい。

「こちらは魔道具で常に、一定の温度に冷やされています。貴重な食材や傷みやすい食材はこちらで感知しています。」

「これは、お金かけてますねー。」

「ははは、初期の儲けの半分がここで消えました。」

 それはそれは。つまりはランドさん名義の倉庫ということ。賃料だけでも中々の儲けになるんじゃなかろうか。

「それは今後次第といったところです。この村は、各地から集めたハチミツを加工することを目的として作られていくそうですから。アッこの先は各種加工場です。」

 そういって案内された先にはいくつもの工場があった。

 ハチミツを瓶詰にしてラッピングする工場に、タルを洗浄してリサイクル工場は基本として、蜜蝋やハチミツを利用した美容品や蝋燭といった加工品の工場などバラエティーは様々である。

「ブレンドと、お菓子作りの工場は一番奥に?」

「はい、この村、アサギリ村の生命線となりますからね。」

 アサギリ村はもともと、王都へ向かう途中の宿場町だったらしい。だが、街道の整備で主要なルートから外れてしまい、その規模は落ち込んでいた。

 そこに目を付けたのが、我らがランドさん。ハッサム村と王都の間にあるアサギリ村にハチミツを保管する中継点を設立することを提案したところ、村長さん以下、村民がこれに呼応し、ハチミツを主体とした産業村を目指して体裁を整えているとのことだった。

「もともとは宿場町でしたので、料理や軽作業が得意な人が多かったのです。設備に関しては我々も投資しましたが、工場の多くは、旅人向けの保存食の加工場を改築したそうです。」

「なるほど。しかし、大胆ですね。未知の商売にここまでするなんて。」

「それだけ、「ハッサムのハチミツ」には魅力があったんですよ。」

 語尾の、「あったんですよ。」私の指摘に対するランドさんの言葉は皮肉がたっぷりだった。


 数年前、快適なスローライフを目指すために私が最初に仕掛けたことが、養蜂だった。それまでの自然とハチの気まぐれにに任せたのんびりとしたシステムに、養蜂箱という拡張性の高い仕組みを取り入れることで、ハチさんたちの勢力とハチミツの生産量は爆発的に増えた。

 この世界のハチ達は、営巣する場所へのこだわりが非常に高く。近場の植物や環境、何より土台となる木や木材が気に入らないと居つくことがない。

 この世界の養蜂家とは、ハチが営巣する近くに住み込み、その環境を壊さないように維持することで、ハチたちと信頼関係を気づいて、少しずつハチミツを分けてもらうのだ。

 だが、「養蜂箱」の出現により、その状況はかなり変わった。

 限られた範囲でくすぶっていた多くの王女蜂たちは、好みの環境の場所に、好みの材質、形状の養蜂箱を設置してもらうことで、営巣の条件をクリアーして、その勢力を拡大し新たな王女たちが育つ、そしてそしてその王女たちが新たな場所に営巣していく、というループができ、王国中でハチミツの生産量は増大したのだ。

「投資目的で、ハッサムのハチミツを買い求めていた愚か者は、痛い目をみたでしょうねー。」

「まあ、食べ物は、食べてこそだからね。」

 当初、「精霊の作ったハチミツ」は、王都や各地でバカ売れした。品薄でプレミア価格になったり、転売目的で買い求められたりして、大変だった。

 大変だったから、私は、トムソンや父ちゃんを言い含めて、このランドさんにハチミツの専売をお願いした。適正価格で売り続ける代わりに、ハッサム村への仕入れと他の日用品を仕入れてくれることを条件にした、相互に利益のあるクリーンな契約である。

 そうして手に入れたハチミツを、ランドさんは信頼できる料理屋さんや問屋に卸していたそうだけど、その先のプレミア合戦は目も当てられない惨状だったとか。

「私どもとしても、慣れぬ商材だったので、すぐに手放して正解でした。あのうねりをコントロールできるとはとてもじゃないですが思えません。」

 そうは言っているが、このハチミツブームの中、ハッサムのハチミツを中心に現地の人と誠実な取引をしているランドさんの信用は高い。

 当初、ハッサムのハチミツがもてはやされたのは、ハチミツそのものの希少性によるものが大きかった。だが、養蜂箱の普及とともに各地でハチミツが作られるようになると、その価値は落ち着いてくる。一方で、生産量が増えればどうしても、質にばらつきがでてしまう。量が欲しい料理人や庶民からすれば、あるだけでありがたい。だが、貴族やお金持ちは、そこに質も求めるようになる。

 客の求める商品を仕入れるのもまた、商人の実力である。ハッサム村以外のハチミツの価値を調査し、より質の良いハチミツを取り扱うようになったランドさんは、気づけば、専門の村に出資できるほどにまで成長したのだ。

「苦労も多かったですが、各地を回るのは楽しかったです。」

「ジジジジ(なかなか筋のいい。)」

「じじじ(信用できる男だ。)」

 今では、ハチも認める、「ハチミツ商人」。それがランドさんなのだ。


長くなりそうなので区切り

次回も異世界経営戦略なお話です。


ランド  「EP48 のちょい役から、株主に出世」

      ハッサム村のハチミツの取り扱いを一手に受ける誠実な商人

 



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